居宅介護支援にも科学的介護推進体制加算?介護情報利活用の拡大で何が変わるか…

イメージ画像

LIFE等で収集・分析される介護情報をめぐり、活用拡大の1つとされるのが「利用者自身の介護情報の閲覧」です。これにより、自立支援・重度化防止に向けた「セルフケア」を推進するのが目的です。現在開かれている介護保険部会でも、この狙いを示すとともに、情報集約等のさらなる推進を論点としています。

現場からの情報収集をさらに進める流れ

現在、厚労省内では介護保険部会の議論と並行する形で、介護情報利活用WGが開催されています。そこで「本人が閲覧したり、介護事業所間、市区町村等で共有することが有用」の情報として、要介護認定情報や報酬請求・給付情報のほか、LIFEで収集している情報、ケアプラン情報をあげています。

今後は、これらの情報を利用者の閲覧等に資するものの範囲が整理されることになります。と同時に、介護保険部会では先の介護情報について、集約のための法令上の整備なども含めた検討が進められる予定です。

また、利用者がLIFEやケアプランの情報を閲覧することを想定した場合、利用しているサービス事業者によって情報量が偏るとなれば、「閲覧機会の公平性」といった点が問題となる可能性があります。その点を考えた場合、できるだけ多くの事業所(居宅介護支援事業所含む)が、デジタルデータ化した利用者情報を提供する環境も求められます。

科学的介護推進体制加算のすそ野を広げる?

たとえば、LIFE情報であれば、もっとも基本的な「科学的介護推進体制加算」にかかる情報収集のすそ野を広げる施策などが考えられます。具体的には、(1)加算要件を運営基準化したうえで加算による報酬を基本サービスに組み込むこと、(1)算定対象サービスを訪問系サービス等にも広げること、…などです。

もちろん、LIFEの稼働から1期(3年)だけで(1)に踏み込むには、経過措置期間などが設けられても、現場としてのハードルは高いでしょう。ただし、現政権がデジタル社会に向けた改革を施策の屋台骨としている中、「マイナポータルを通じた利用者の利便性向上」を前面に打ち出す傾向がさらに強まることは確実です。となれば、ハードルの高い(1)の改革強行も可能性はゼロではありません。

少なくとも、(2)はほぼ確実に実施されると考えていいでしょう。と同時に、ここには居宅介護支援も入ってくることが想定されます。

現在、LIFE活用にかかる居宅介護支援事業所を対象としたモデル事業が行われています。その第2期(2022年度)調査では、居宅介護支援事業者自体がLIFEのアカウント登録を行ない、科学的介護推進体制加算にかかる情報登録を手がけることになっています。

ケアプランデータ連携システムの活用可能性

こうしたモデル事業が行われることを考えると、2024年度から居宅介護支援にも「科学的介護推進体制加算」が適用されるかもしれません。そうなれば、アセスメントやモニタリングに際して、ケアマネの視点で科学的介護推進体制加算にかかる情報収集が、新たに実務上に組み込まれることになります。

加えて注意したいのが、ケアプランデータ連携推進事業により、ケアプランデータの一部(6・7表に加え1・2表も)がデジタルデータ化される土台が整うことです。このシステムを活用してケアプラン情報を収集する(ここに先の科学的介護推進体制加算の項目もプラスする)という流れも考えられます。

こうした情報の解析方法にもよりますが、利用者が閲覧できる情報様式として、以下のようなしくみも想定されるでしょう。たとえば、利用者ごとの長期・短期目標を示したうえで、その進ちょくに関連するデータを科学的介護推進体制加算にかかる項目から拾い上げて閲覧可能にするといった具合です。

北欧では、「使う側」の心理を重視した支援も

仮にこうした改革が進められるとなった場合、ケアマネの日常的な業務フローも大きく変わる可能性があります。ただし、「利用者が閲覧できる環境の構築」だけを先走ると、利用者がそれを閲覧し活用するという、そもそもの目的がないがしろにされかねません。

ちなみに、北欧の福祉先進国・デンマークでは、やはり介護サービスにおけるハイテク技術の活用が急速に進んでいます。その全体像を示した報告書によれば、「ハイテク技術の活用」について、サービスを受ける高齢当事者の心理的な受入れステップを示しています。

具体的には、(1)その技術のメリット・デメリットをきちんと評価すること、(2)取り入れることの「迷い」を払拭して必要性を認識すること、(3)実際に取り入れて日々の生活習慣の中に定めること、(4)新たな技術に対する信頼を確かなものにすること…となります。

高齢者の場合、新たなインフラに慣れるための上記ステップには一定の時間を要します。支援者は、そのステップを意識しながら対応を進めることが重要である──デンマークの報告書ではこうした点を強調しています。

わが国の場合、ハイテク整備を進める一方で、こうした当事者の意識に寄り添う姿勢がやや希薄な印象を受けます。この「当事者」が現場従事者であっても同様でしょう。「新たなしくみを使う」側の心理に寄り添って施策を構築すること──急速なデジタル社会を目指す今だからこそ、欠かせない視点です。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。