2021年度改定の大きな特徴は、2024年3月末までの経過措置を設けた新基準が数多く誕生したことです。9月15日の介護給付費分科会では、これら一連の項目が取り上げられました。ここでは、口腔・栄養にかかる運営基準について、次期改定で居宅系サービスに広がる影響について取り上げます。
施設系の「口腔・栄養」基準強化の対応状況
口腔・栄養にかかる2021年度改定の注目点といえば、施設系サービスでの一部加算が運営基準に組み込まれたことでしょう。
具体的には、歯科医師や歯科衛生士による介護職への口腔ケア指導等を評価した口腔衛生管理体制加算が廃止され、運営基準に組み込まれたこと。栄養関連では、入所者ごとの栄養管理を計画的に行なうことを評価した栄養マネジメント加算が廃止され、やはり運営基準に組み込まれました。こちらは、同時に未実施の場合の減算規定も設けられています。
いずれも2024年3月末までの経過措置が設けられましたが、現状での対応状況はどうなっているのでしょうか。
口腔衛生の管理体制を定めた新運営基準では、管理体制にかかる計画作成が義務づけられています。それによれば、2022年11月時点で、すでに立案済みの施設は特養で49.9%、老健で59.5%(2021年度の介護報酬改定の効果検証および調査研究より。以下同)。経過措置が終了するまでの作成予定は約9割ですが、中間時点で4~5割が未作成となると全施設での実現は厳しくなる可能性があります。
一方、基準化された栄養ケアマネジメントについては、上記と同時期調査で「すでに実施している」が、特養で82.5%、老健で89.3%と9割近くに達しています。こちらは、基準化の浸透が比較的順調と言えそうです。
居宅系での口腔・栄養加算の算定状況は?
これら施設の状況を頭に入れたうえで、居宅系サービスの状況を見てみましょう。居宅系のうち、口腔・栄養ケア系の加算がひと通り備わっているのが通所系サービスです。
特に利用者の多い通所介護では、(1)口腔・栄養スクリーニング加算、(2)栄養改善加算、(3)栄養アセスメント加算、(4)口腔機能向上加算があります。いずれも、2021年度改定で再編や創設、要件ハードルを上げたうえでの加算単位の引き上げ等が行われています。
問題は算定率です。どの加算も算定事業所の割合は1割に届いていません。もっとも高いもので、大規模・通常規模の(4)のIIで7.9%。地域密着型での(2)、(3)に至っては1%に満たない数字となっています。
一方で、通所介護の利用者データを見ると、「噛むことに問題がある利用者」は89.5%。「BMI18.5未満(つまり、やせ)の利用者」は42.9%ですが、「把握していない」割合が44.0%もあるので、栄養状態に問題がある利用者も5割を超えている可能性があります。
2024年度改定は居宅系がターゲットに?
こうして見ると、施設系サービスでの口腔・栄養ケアのさらなるテコ入れもさることながら、今後、居宅系サービスでの口腔・栄養ケアの拡充が論点として急浮上する可能性があることに注意するべきでしょう。
その場合、訪問介護をはじめとする訪問系サービスでのケアのあり方や、ケアマネによる情報収集や対医療連携のあり方も深くかかわることは必至です。なぜなら、利用者の口腔・栄養状態の改善は、「サービスを利用していない間」の生活状況が大きく影響するからです。その生活状況を「線」で結んでいくには、訪問系サービスやケアマネジメントのあり方を同時に議論しなければなりません。
その場合、セットで浮上するのが、「訪問系や居宅介護支援におけるLIFE対応加算の設定」でしょう。たとえば、現行の科学的介護推進体制加算をそのまま適用するというより、その中の口腔・栄養に関する情報項目を拡充させるという流れも考えられます。
LIFE拡大も新複合型も…口腔・栄養が左右?
もう1つ注意したいのが、すでに論点として上がっている「訪問介護+通所介護」などの新たな複合型サービスです。現時点では導入に消極的な意見も多いですが、利用者の生活全般を通じた「途切れのない口腔・栄養改善の取組み」という切り口で、新サービスの意義が改めて取り上げられるかもしれません。
さらに、報酬体系の簡素化という議論の中で、口腔・栄養・リハビリ(あるいは機能訓練)の取組みを一体的に評価する加算の再編が行われる可能性もあります。それを訪問系や居宅介護支援にも適用しながら、居宅系サービス全般での途切れのない自立支援につなげるビジョンも強化されることになります。
このように、2024年度改定に向けたテーマである、LIFE活用や複合型サービスの拡大、報酬体系の簡素化などは、「口腔・栄養」という切り口をもって、1つのビジョンを形成しているという見方ができます。
もっとも、報酬体系の簡素化やデジタル情報連携などによる請求事務等は簡素化されても、現場でアセスメント等を担う従事者の対応力が軽減されるわけではありません。いずれにしても、必要となるのは人員確保と資質向上の教育にかかるコストです。
上記のようなビジョン形成には、大前提として必要なコストを確保できる基本報酬+処遇改善が不可欠です。厚労省が口腔・栄養ケアの充実に真剣に力を注ぐのなら、自立支援が進むことによる介護費用の節減効果をきちんと推計し、そのために必要な報酬上のコストを強く打ち出すべきではないでしょうか。
◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。