「訪問+通所」の新たな複合型、 現場の期待と解決すべき現実について(1)

2024年度の介護報酬・基準改定で、大きな論点となりそうなのが、「訪問系+通所系」の新たな複合型サービスの創設です。昨年の介護保険部会でも、創設のメリットが唱えられる一方、慎重に検討すべき課題も少なくありません。果たして実現に向かうのかどうか。注目したい議論のポイントを取り上げます。

事業者が想定する「柔軟性」以外のメリット

関連ニュースでは、この新たな複合型サービスをめぐり、各事業所がどのようにとらえているかなどを調査した結果があがっています。想定されているのは、訪問介護・訪問看護と通所系サービスの組み合わせです。

事業者として、この複合型にどのようなメリットを描いているのでしょうか。調査結果では、「本人の状態を踏まえた柔軟なサービス提供」への期待が目立ちます。この点は、介護保険部会の報告書でも指摘されていました。

注目したいのは、事業者が想定するメリットとして、以下の点も目立つことです。たとえば、(1)生活全般の把握とそれにもとづくアセスメントができるようになる、(2)利用者の新たなニーズの把握ができるようになる、(3)より自立支援・重度化防止につながるサービスが提供できる──という具合です。(1)については、通所系事業所で「柔軟なサービス提供」を超えてトップとなっています。

興味深いのは、「事務の効率化」というメリットが相対的にあまり大きくないことです。どちらかといえば、業務の効率化よりもサービスの質の向上という、よりポジティブな視線が向けられていると考えていいでしょう。

複合型であれば、それは本当にできるのか?

ただし、こうした傾向をもって「新たな複合型を推進すべき」とするのは、やや早計かもしれません。そもそも、先の(1)~(2)については、新たな複合型を創設するか否かにかかわらず、サービス事業所の日常業務を通じた責務であるはずです。裏返せば、それが「円滑にできる環境にない」というゆえに、新たな複合型に期待しているとも言えます。

なぜ「できていないのか」を掘り下げた時、「サービス担当者間の連携・情報共有ができていないから(複合型なら、その連携・共有が円滑に行なえる)」だけではないはずです。(1)~(2)はいずれも「現場の気づき力や対応力」が問われるという点では、個々の従事者のスキル、つまり事業所内での教育・育成の問題も絡んでいることになります。

また、(1)~(3)の実効性を上げるうえでは、居宅のケアマネにきちんと「つなぐ」という実務風土が形成されていなければなりません。その点で、ケアマネジメントが適切に機能しているのかも問われているわけです。

これらの課題が解決されなければ、仮に新たな複合型が誕生しても、根本的な解決はあまり期待できないかもしれません。

事業者の求める参入条件が示すものとは?

上記を踏まえれば、たとえば「気づき力・対応力」の向上のためには、優秀な人材の確保、もしくは人材育成のしくみ充実が欠かせないことになります。興味深いのは、この点が「新たな複合型に算入する条件」そのものにつながっている点です。

調査結果を見ると、事業所側が考える参入条件として、「事業所の収入増」と「職員の確保」がトップ2となっています。先に述べた人材育成のしくみの充実を目指すなら、前者の「事業所の収入増(収入維持ではなく、新たな育成コストの発生を想定した収入増)」も当然不可欠な要素となるでしょう。

つまり、「事業所の収入増」と「職員の確保」は、新たな複合型のメリットのための土台に位置づけられるわけです。踏み込んで言えば、この2つの課題は、「新たな複合型ができるか否か」に関係なく、サービスの質の向上をめぐって事業者側が常に頭に入れている課題である──この見方が必要だということです。

事業者の参入条件を叶えるための「覚悟」

もちろん、新たな複合型サービスをめぐっては、「本人の状態(ここには当然「意向」も入るはずです)を踏まえた柔軟なサービス提供」という、もっとも大きなメリットがあります。この点をもって「導入を推進する」という議論になる可能性はあるかもしれません。

ただし、それだけで「事業者の参入意欲には直結するか」といえば、上記の2つの課題を考えれば「難しい」とならざるを得ません。

たとえば、包括報酬の設定についても、現行の「訪問系+通所系」の報酬だけを基準としたレベルであれば、それで参入意欲が高まると考えるのは楽観的すぎるでしょう。また、「今まで以上の人材確保が必要」となれば、各種処遇改善加算における加算率を高く設定するといった対応も必要になります。

介護報酬全体とのバランスを考えれば、「新たな複合型」だけをそこまで優遇することは難しいかもしれません。つまり、厚労省にそれだけの覚悟があるのかどうかを、今回の調査結果は迫っているとも言えます。

もう1つ欠かせない視点が、複合型となったケアマネジメントをどうするのかという点です。たとえば、小規模多機能型のように内部のケアマネが行なうのか。仮にそうだとすれば、新たにケアマネを採用するためのコストにも言及せざるを得ません。ケアマネジメントの質をどのように担保するか、という問題もあるでしょう、このあたりの課題については、次回踏み込んでみたいと思います。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。