高齢者の5人に1人が一人暮らし。 そうした時代の社会参加の支援とは?

内閣府より、令和5(2023)年版の高齢社会白書が公表されました。見るべき点はさまざまありますが、掲載されている統計データから、ここでは「65歳以上の一人暮らしの者の動向」に着目してみましょう。

一人暮らしとなった人の生活リスクとは?

65歳以上で一人暮らしの人の割合は、統計データによれば、2020年時点で女性が22.1%、男性で15.0%となっています。2021年の国民生活基礎調査によれば、全体で19.4%。65歳以上の5人に1人が一人暮らしとなります。

ケアマネとしては、「一人暮らしの利用者」に対してのアセスメント等で、どのような点に注意を払っているでしょうか。在宅の場合、身近で「常時声をかける家族」がいないとなれば、たとえば服薬管理や口腔ケア、栄養・水分補給など重度化を防ぐうえでのセルフケアのあり方が大きな課題となるでしょう。

また、同居家族がいることで「一緒に起きてご飯を食べる」、「買い物に行くなど一緒に出かける習慣を持つ」など、一定の生活サイクルを維持するきっかけを作りやすくなります。地域活動への参加なども、本人が「乗り気」しなくても、配偶者の誘いで渋々参加したところ、実際に参加することで自発的な意欲がわいてくるということもあるでしょう。

これが、一人暮らしの場合はどうなるでしょうか。たとえば夫婦世帯だったケースで、配偶者が亡くなるなどで二人暮らしの時に培われた生活リズムが途切れれば、そのリズムを一人暮らしの中で転換するには、それなりのエネルギーを要します。高齢期となれば、円滑な転換は簡単ではありません。

新たな社会参加に向けた「つなぎ」の支援

そうした状況をカバーし、一人暮らしの生活リズムへとソフトランディングさせつつ、本人の生活意欲の維持・向上を図るにはどうすればよいでしょうか。そこには、さまざまな支援手段の介入が必要となります。

地域等で新たな関係性や役割を構築する場合でも、取り次いだり誘導を図る支援が求められます。その場合、地域に「通いの場・機会」を増やしたり、そうした場からの誘いも必要かもしれません。しかし、円滑に「つなぐ」には、本人の意思決定支援を図りつつ、その意向に寄り添うという専門性が必要です。

その専門性を総合事業等の地域支援事業で担い切れるのか。その部分では、やはり専門性を発揮できる保険給付が必要ではないのか。こうした議論も今後は不可欠になるでしょう。

その場合、中心的に担うのはケアマネとなりがちです。しかし、ケアマネだけで担うのは、役割分担的にも荷が重すぎるでしょう。航空機で言えば、管制塔とパイロットが同じ役割を担うようなものです。やはり、新たな生活リズムの「つなぎ」役(パイロット)は、ケアマネとは別の専門職(あるいは専門チーム)が担うべきではないでしょうか。

「移動」をいかに支援するかも大きな課題

もう1つ考えなければならないのは、地域での場や機会に「つなげていく」ための「移動」支援の充実が必要だということです。移動支援というと、「移送ボランティア」や「送迎の機能」が頭に浮かびがちですが、そうした手段ばかりではありません。

本人の主体的な参加意欲を尊重する場合、「思い立って行ってみる」という自発的な行動は、新たな生活リズムの構築に向けては極めて重要なポイントです。それを支援するとなれば、(1)本人の状態に合わせた歩行機能をサポートするアイテム、(2)本人が使いやすい公共交通機関の充実、そして、(3)点から点への移動に際してのバリアフリー環境がどこまで整っているかが大きく問われます。

(1)でいえば、本人の状態に合った杖や歩行器、車いすがあげられます。これを保険給付によるだけでなく、すべての一人暮らし高齢者に少なくとも歩行器支給ができるよう、公費対応の充実も求められるかもしれません。

ますます必要になる「まちづくり」ビジョン

(2)や(3)は、地域における「まちづくり」の課題でしょう。昨今、コロナ禍を経てのドライバー等の不足で、バスの本数やタクシーの台数が地域から著しく減っているケースをよく聞きます。たとえば、欧州では無人による自動走行のトラムなどが見られますが、日本でもこうした新たな交通システムの開発・普及に力を入れることも課題となります。

また、各地をめぐると、中規模以上の自治体でも、いまだに歩道橋にエレベーター等がなく付近の信号は自転車のみが走行可としているケースが見られます。歩行車用の信号機も、一定の幅がある道路で青信号の点灯時間が極めて短く、歩行スピードの遅い高齢者が渡り切れないという場面を見ることがあります。自家用車の保有台数の多い地域で渋滞を防ぐことが優先されているのかもしれませんが、高齢社会で免許返納者が増える時代には、これも考えるべき「まちづくり」の課題です。

最近、市街地の活性化で新規商店等の誘致などを進めているケースがありますが、そうした開発に財政投入する前に、やるべきことがあるのではと思えてなりません。一定の所得がある高齢者が気兼ねなく移動できる環境が整えば、主体的な移動の活性化は地域の消費をうながすことにもなるでしょう。

ケアマネとしても、本人視点で街歩きをしながら、高齢者の移動を阻害する環境はないかをチェックし地元のケアマネ連絡会などを通じ、行政に働きかけてはどうでしょうか。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。