熱中症による救急搬送はさらに急増 「再発リスク」着目の報酬評価も必要に?

総務省が公表する「2023年の熱中症による救急搬送状況」によれば、国内で気温が急上昇した7月10日から16日の1週間で、救急搬送が8,189件にのぼりました。前週の3,964件からほぼ倍増しています。梅雨明けとともに、さらなる気温上昇も予想される中、専門職として頭に入れたいポイントを整理します。

既往歴や服薬状況が熱中症リスクに影響大

救急搬送8,189件のうち、半数以上が高齢者です。高齢者の場合、新陳代謝が衰えがちで、汗をかきにくく喉の渇きも感じにくいゆえに熱中症リスクが高くなりがちです。そうした傾向と符合するデータといえます。

そして、熱中症の発生場所の約4割は「自宅」です。屋内は熱がこもりやすいうえ、湿度も高まりやすいことがあります。湿度が高まるとさらに汗が出にくくなるので、温度以上に熱中症リスクを左右するといわれます。

ケアマネとしては、すでに担当利用者(特に独居・日中独居の人)に対して、熱中症の予防啓発を行なっているケースも多いでしょう。その際に、頭に入れておくべきは、やはり利用者の既往歴や服薬状況です。

たとえば、高血圧の治療で利尿薬が処方されている場合、脱水を招きやすくなります。降圧薬が処方されていると心機能が抑制され、体内から熱が逃げにくくなります。糖尿病による多尿も、脱水リスクをともないます。(環境省の自治体向け説明資料より)

また、筋力が衰えている人の場合、筋肉による水分保持の機能も低下するため、やはり熱中症リスクが高まるとされます。

ケアマネやサービス担当者が配慮すべき点

こうしたアセスメントを通じて、利用者の熱中症リスクを把握したら、やはりチームでの情報共有もしっかり図る必要があるでしょう。そのうえで、特に訪問系サービスの利用ケースでは、「現場で配慮すべき点」について、サービス担当者とのコミュニケーション機会も意識して増やすことが求められます。

たとえば、「利用者の必要な水分補給量」を確認したうえで、どのように本人に水分補給を促すか。居宅内の温度や湿度をどのようにチェックするか。エアコン等による温度調整の設定をどの程度にするか。居宅での日差しの当たり方などをチェックしつつ、時間帯によって「居宅内の涼しい場所に利用者を移動誘導する」なども必要になるかもしれません。

とはいえ、こうした熱中症リスクの軽減を図っていても、特に在宅で独居の利用者の場合などは限界もあるでしょう。たとえば、担当者およびケアマネ自身が訪問したら、利用者が熱中症で倒れていた、明らかに熱中症の症状を見せているといった場面に遭遇するケースも増えてくるかもしれません。

筋力低下や栄養悪化がもたらす再発リスク

そうなると、ケアマネ等としては、「熱中症予防」だけでなく、「仮に利用者が熱中症になり救急搬送等に至るケース」の想定も必要となります。高齢の要介護者が救急搬送となれば、たとえ熱中症としては軽症でも入院が必要になることも多いでしょう。

当然ながら、担当ケアマネとしては、以下の3点を頭に入れながら、退院に向けた実務(退院・退所加算に関連する実務など)に対応していくことが必要になります。

1つは、高齢者は安静状態での筋力低下が著しいため、退院前後での医療・介護の両リハビリをいかに進めていくか。2つめは、在宅復帰を果たしたとして、搬送前の生活の回復を図るうえで下支えとなる生活支援や環境整備をどのように進めていくか。

そして、3つめは、筋力低下や家事能力の回復が遅れる中での栄養不足などにより、おのずと熱中症の再発リスクが高まっていることです。再発リスクは他の疾患等でも同様ですが、熱中症の場合、猛暑日が継続する中では特に短期間での再発が懸念されます。

搬送急増時だけでは量れない「介護力」

こうしてみると、熱中症シーズンに介護・医療関連の実務が増えていくのは当然として、シーズンが去った後も(特に介護分野での)手厚い対応は継続することになります。

つまり、冒頭のような救急搬送データを見る場合、「急激に増えた」という時点の後に、必要となる介護力が「継続的に増えている」という視点を定めなければならないわけです。

その点をきちんと報酬上で評価するしくみが確立されないと、短期間での再発リスクは一気に高まり、その後の(特にコロナ禍で懸念される)病床ひっ迫や医療費・介護費の膨張につながりかねません。国としては「熱中症予防キャンペーン」に力を入れていますが、その実効性を高めるのなら、介護報酬改定の議論にもきちんと反映させるべきでしょう。

たとえば、介護・診療報酬上ではコロナ禍での特例がありましたが、温暖化にともなう熱中症リスクの増大も考慮した季節的な特例(例.熱中症再発リスクの防止に着目した特例)なども論点とするべきではないでしょうか。給付費が跳ね上がるという意見もあるでしょうが、そもそも増加する熱中症により給付費がどれほど増大しているのかが分析できれば、客観的な効果も推し量れるはずです。

そして、こうした分析は、「エアコン等の使用増加にかかる光熱費」などへの円滑な補助を打ち出すうえでも有効でしょう。毎年のように課題となる熱中症に向け、患者の生活への影響にかかる統計データなどを拡充させることが、国をあげて求められています。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。