今年も、公益財団法人・介護労働安定センターから最新(2022年度)の介護労働実態調査の結果が公表されました。事業所調査では人材不足感の高まりが指摘されていますが、ここでは労働者調査にも注目しながら、主にケアマネの状況にふれてみましょう
ケアマネの「人材不足感」の高まりを考える
事業所調査の職種別人材不足感では、訪問介護員の「不足感」の高さに注目が集まっています。一方、対前年度調査からの「不足感の伸び」という点では、介護職員とケアマネが際立ちます。ともに、この1年で4.5ポイント以上の伸びを見せています。
中でもケアマネについては、2019年度からの右肩上がりが目立ち、4年で7ポイント以上高まっています。厚労省が示す1事業所あたりのケアマネ人数(常勤換算)は、2019年度に大きく減少しますが、その後はやや持ち直し傾向にあります。その持ち直し傾向の一方で、今調査での人材不足感の高まりの流れにはギャップが感じられるかもしれません。
当然ながら、考えられるのは「利用者数の増加ペースに、ケアマネ人員が追いついていない」という状況でしょう。しかしながら、2019年度を起点とした場合の要介護・要支援認定者数の伸びは鈍りつつあります。コロナ禍では、認定申請が鈍っていた可能性もありますが、いずれにしても「利用者増による人材不足感の増加」という仮説は、単純には当てはまりにくいようです。
ケアマネのモチベーションは急速に低下
ここでいったん目を移し、当のケアマネ側がどう考えているのかを見てみましょう。
労働者調査では、「勤務先での就労継続意欲」を尋ねています。介護従事者全体としては、2016年度調査以降「就業継続意欲」は右肩上がりで、2020・2021年度はコロナ禍で現場が大変な状況にあったにもかかわらず60%を超えていました。それが、今回の2022年度調査では一気に58.2%まで下落しました。
さらに、職種別の「就業継続意欲」に注目してみましょう。2021年度と今調査の比較で、「介護職員」はマイナス4.3%と下げ幅が目立ちますが、それ以上に大きく下げているのが「ケアマネ」です。その下げ幅はマイナス5.7%。無期雇用のケアマネに至ってはマイナス5.9%と6%に迫る数字となっています。
事業所調査での「ケアマネの人材不足感」の上昇と、労働者調査での「ケアマネの就業継続意欲」の減退──ともに著しい変化が奇しくも符合しています。人材不足がモチベーション低下につながるのは不思議ではありませんが、ここまでストレートに結び付くのは、大きな問題があると考えていいでしょう。
各種処遇改善加算の行き渡らなさが原因?
では、その問題とは何でしょうか。人材不足となれば、現場のケアマネ業務は煩雑となります。それがストレートに意欲低下に結びつくなれば、やはり「処遇が見合っていない」という状況が思い浮かびます。つまり、ケアマネの賃金の低さがうかがえるわけです。
実際、ケアマネの満足度D.I(※)を見ると、2021年度と今回の調査で「賃金」のマイナス幅の拡大(マイナス5.7⇒マイナス16.3)が目立っています。介護職員の「賃金」への満足度は、もともとマイナス20ポイント以上と低いのですが、この1年間の落ち込みという点ではケアマネ側の状況が際立ちます。
さらに、「人事評価・処遇のあり方」という項目では、2021年度はプラスでしたが、一気に10ポイント近く減少してマイナスに転じています。これも大きな変化でしょう。
やはり、居宅ケアマネに処遇改善加算が行き渡らないことなどが影響しているのでしょうか。しかし、さらなる要因が重なっている可能性もありそうです。たとえば、2021年度改定を境とした職務環境の変化です。
※満足度D.I=(満足の割合+やや満足の割合)-(やや不満足の割合+不満足の割合)。マイナス幅が大きいほど「不満足度」が高い。
なりふり構わぬ「営業風土」の高まりに注意
昨今、現場のケアマネから耳にするのが、「『新規の利用者を積極的に獲得するように』という事業者からのプレッシャーが高まった」という話です。具体的に「指示」として出されるわけでないにしても、医療機関に出向く機会があれば、地域医療連携室に寄って、「退院見込みでケアマネが新規で必要な人はいないか」を打診する──といった具合です。
あくまで仮説ですが、2021年度の逓減制の緩和を機に、大規模事業所などの一部で「利用者を可能な限り囲い込む」という動きが生じている可能性があります。一部事業者がそうした動きに出れば、他事業所を巻き込み「囲い込み競争」が自然と激しくなるわけです。
その結果、現場のケアマネに(明確な指示はなくても)「なりふり構わぬ営業努力を求める」という暗黙のプレッシャーが高まっているのかもしれません。当のケアマネとしては、「暗黙」であるゆえに、業務評価があいまいなまま、本来のケアマネジメント業務の理念が揺らいでいる部分はないでしょうか。
そのあたりが「人事評価・処遇のあり方」の満足度D.Iの大幅減少につながっているという見方もできそうです。直近の介護事業経営概況調査で、居宅介護支援の収支差率は大幅改善となりました。一方で、その裏には現場のケアマネへの有形無形の「ひずみ」が生じているのではないか。今回の調査では、底の深い課題が見え隠れしています。
◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。