2024年度改定で見えてくる、 トップと従事者の「対話」がカギとなる時代

2024年度の改定内容では、組織的な実務をともなう新基準・新加算や、既存加算で新たな取組みを定めた要件見直しなどが、過去の改定以上に目立ちます。多くのサービスで基本報酬や処遇改善加算の加算率は上がりますが、それが上乗せされる実務のバランスと見合うのかどうか。その見極めが問われます。

生産性向上の取組み自体が皮肉にも負担増に

次期改定で、施設系・居住系などに設けられた新基準が、生産性向上にかかる課題を検討する委員会の設置義務です(3年の経過措置あり)。さらに、この新基準をベースとした生産性向上推進体制加算も誕生しました。

新たな委員会の設置となれば、どのタイミングで誰を参加させるのか、検討結果をどのように現場に周知して実務に活かすのか──こうしたマネジメントが必要となります。

また、新加算においては、見守り機器等のテクノロジーの導入や、一定の指標を活用しての業務改善データを収集し、そのデータを提供することが求められます。たとえば、新指標を使っての調査を誰が行なうのか、そのデータ提出を誰が担うのかなど、やはり実務上の分担などを考えなければなりません。

いずれも、「現場の業務負担等の軽減」を図るためのしくみですが、関連する実務自体が「現場の実務を増やしてしまう」という皮肉な状況を生み出しかねない恐れもあります。

現場従事者の「納得」には時間がかかる⁉

厚労省としては、それらの負担増を見込んだうえで、基本報酬や処遇改善加算の加算率のアップを図ったという位置づけかもしれません。また、これらの取組みが軌道に乗れば、実務負担の軽減などの業務改善はおのずと推進されるといったビジョンもあるのでしょう。

しかし、新たな実務負担と処遇改善のバランスが適切なのかどうか、新たな基準・加算による取組みの効果が現場にとって本当に実感できるものになるのか──このあたりは、一人一人の現場従事者の「納得」へとつながるまでに一定のタイムラグも生じるはずです。

現場従事者にとって、「納得」できない状況が長期化すれば、当然ながら仕事に対するモチベーションは低下します。間もなく春闘が始まりますが、多くの産業界で賃金が引き上がるのを横目で見ることで、「他産業への転職」を誘発することにもなりかねません。

法人トップには「今やらないと」の焦りが

法人トップとしても、業界の人員不足が厳しい折、現場の離職を誘発するような実務負担増には慎重にならざるを得ません。一方で、たとえば生産性向上に向けた取組みは、「今後も国が必ず力を入れてくる分野」という見通しから「いずれはやらなければならない。今やらないと、2027年度改定はもっと厳しいことになる」と認識していることでしょう。

確かに、2024年度改定は、次の2027年度改定に向けた1ステップに過ぎないという傾向が見てとれます。先の生産性向上に向けたしくみに限らず、認知症関連の加算要件の動きなども、そうした流れが浮かんできます。

認知症関連でいえば、次期改定で大きなトピックとなっているのが、認知症のBPSDの発現予防などに焦点をあてた認知症チームケア加算です。ここでも新たな指標を使った現場評価などの実務が定められていますが、そうした取組みの一部を基準に組み込んだりしながら「標準化」を図ることも考えられます。

既存の通所介護の認知症加算でも、事例検討等の会議の開催が要件に加わりました。単位を上げずに、こうした要件を上乗せする(+認知症の人の割合要件を緩和する)というのは、いずれ基本報酬に組み込む流れを想起させる改定です。法人トップの中には、こうした見通しを立てているケースもあるでしょう。

トップと現場の関係性を質的に転換する時代

こうした制度改正の流れがますます強まるとすれば、法人トップとして心がけるべきことは何でしょうか。ただ「先々を見すえれば必要だから」とトップダウンで邁進すれば、先の述べた「現場従事者の納得」までのタイムラグは大きくなり、モチベーション低下で離職誘発や組織の崩壊を招きかねません。

求められるのは、法人の「トップダウンによる実務上の指示」ではなく、「現場従事者とのフラットな対話」を増やすことではないでしょうか。つまり、組織運営のあり方の中で、トップと現場従事者の関係性の「質」を大きく転換させる時期が来ているわけです。

もちろん、現場従事者にとっては、「フラットな対話だろうと、忙しい中で時間をとられることに変わりない」という思いはあるでしょう。その点では、新たな場を設けるのではなく、今まで「トップダウンによる指示通達が中心」だった機会で、「現場からの不安や戸惑いを含めた声の吸い上げ」の比重を高めるなど、少しずつできることはあるはずです。

「対面では意見が言いにくい」なら、法人内アンケートや法人内ネットを使った意見収集の装置を最大限に広げ、現場の声を聞く回路を増やす方法もあります(それ自体、現場の生産性向上の取組みになるとも言えます)。

処遇改善加算では、職場環境等要件の中で「職場内コミュニケーションの円滑化」や「法人によるケア方針等の明確化」という項目はあります。しかし、「法人と現場の対話促進」にかかる項目はありません。今改定を機に今後ますます重要視されてくるテーマと考えれば、法人内の「対話促進」を後押しするための制度面の見直しも必要になりそうです。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。