
2024年度改定では、通所系サービスに関する注目項目に「入浴介助加算」の見直しがあります。2021年度改定で設けられた新区分の要件が一部見直されたほか、従来区分にも新要件が誕生しています。現場からの戸惑いの声も多い中、通所をはじめとする「入浴介助」のあり方について掘り下げましょう。
入浴介助加算の要件見直しの内容を整理
まず、通所介護における今改定の内容を改めて整理しましょう。2021年度改定で設けられた新区分では、利用者の入浴に関する動作や居宅の浴室環境を医師やリハビリ専門職、介護福祉士、ケアマネが、居宅訪問を含めて評価することが要件とされています。
今改定では、(1)評価者の範囲に福祉用具専門相談員や包括職員も含むとしたことに加え、(2)(1)を含む医師等が訪問できない場合に、介護職員(介護福祉士以外)がICTを活用して把握した状況をもとに、医師等が評価・助言を行なうやり方でもOKとなりました。
さらに、上記の評価をもとに利用者個別の入浴計画を作成するにあたり、通所介護計画の記載で代えることができるとしています。このあたりは、2021年度改定時に発出された疑義解釈等をもとに明確化を図ったものです。
そして、今改定のより大きなポイントは、従来区分となるIで、以下の要件がプラスされたこと。それが、「入浴介助にかかわる職員に対し、その入浴介助に関する研修を行なうこと」というものです。
研修の義務づけで、現場はどうなるか?
区分Iの具体的な「研修内容」については、今後留意事項や疑義解釈で示されることになるでしょう。ちなみに、昨年10月26日の分科会で示された「実践されている研修内容」を見ると、「移乗介助の技術」や「リスク管理」などが中心となっています。入浴介助時の事故が重大な結果を招きやすいことから、主にリスクマネジメントにかかる研修を求める通知改正などが図られると想定されます。
しかし、仮に内部での研修であっても、従事者は一定の時間を取られます。管理者やリーダークラスが研修指導者となる場合、ただでさえ2024年度改定で「管理業務の増加傾向」が高まる中、さらなる負担増を強いられることになりかねません。
そうなると、負担と処遇とのバランスが問われるわけですが、今改定では入浴介助加算の単位に変更はありません。基本報酬は0.5%ほど引き上げられていますが、その中で対応していかざるを得ないことになります。
結果として、分科会でも出されていた「入浴介助を行なう事業者が減ってしまう」という懸念が現実となる可能性もあるでしょう。その時、通所介護の利用者にどのような影響が生じるかを見すえなければなりません。
「入浴」と自立支援・重度化防止との関係
そもそも入浴介助には、利用者の「家でしていた生活の継続・再現」を土台としつつ、同時に上乗せされる支援上の意義があります。
認知症介護研究・研修センターが運営する認知症介護情報ネットワークでは、入浴場面における認知症ケアの考え方を示しています。その中の「入浴の目的」には、(1)皮膚を清潔にして細菌感染を予防する、(2)心身機能を高め心身をリラックスさせるとなっています。
(2)に関連しては、入浴することで血液やリンパの循環を促進し、筋肉の緊張や疲労を和らげたり、胃腸や腎臓などの臓器の機能を高めたりするという効果も示されています。
また、自律神経との関係で言えば、ほどよい温度(熱すぎない温度)の入浴は交感神経と副交感神経のバランスを整えるとされ、これは良質な睡眠にもつながります。
いずれにしても、適切な入浴習慣を作ることは、利用者の健康状態を維持・向上させ、自立支援・重度化防止にも大いに資するわけです。もちろん、さらに科学的な視点も必要でしょうが、少なくとも介護保険によって提供される意義は大きいといえます。
単位引き上げや経過措置設定が筋ではないか
この点を考えたとき、「事業者が入浴介助を手がけなくなるかもしれない」という改定は、自立支援・重度化防止の考え方から大きく逸れることになります。そのために利用者の重度化が進むとなれば、逆に介護保険財政を圧迫する要因にもなることは間違いありません。
これを防ぐには、今の入浴介助加算Iの算定率(通所介護で9割超、地域密着型でも7割超)を維持しつつ、さらに引き上げる方策を第一に考えなければなりません。そのことを優先しつつ、先に述べた「リスクマネジメントの向上」等を要件に組み込むとなれば、それに見合う単位設定を行なうことが、施策上の当たり前の考え方ではないでしょうか。
もう1つは、厚労省が研修実施にこだわるのであれば、「入浴介助」にかかる国の責務による統一的なテキストを作成し、地域で研修ができる体制を整えることが筋という点です。
これがないと、各事業所に任せることで、入浴介助の均質化を担保することが難しくなります。そうした国の責任による研修体制の整備ができるまでの間は、入浴介助加算Iの要件適用には経過措置を設けるべきでしょう。
今回の改定は、利用者の健康やQOLの改善に向けて「入浴」がいかに重要であるかについて、施策側の認識の乏しさを浮き彫りにしてしまったのではないでしょうか。このあたりは、介護保険の制度設計全体にもつながってくる課題と言えそうです。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。