
2024年度改定では、施設系・居住系で「協力医療機関との連携」をめぐる新基準・加算が設けられました。一方、診療報酬側でも協力医療機関としての責務を全うするための施設基準や評価が誕生しています。そうした中、両者を「つなぐ役割」は誰が担うのか。施設等ケアマネの働き方にもかかわりそうです。
職責があいまいゆえに、実務が増える構図
施設系・居住系サービスには、ケアマネの配置が定められています。施設系・居住系に勤務するケアマネは、ケアマネ全体の25%以上にのぼります。各種加算の要件で多職種会議等への参加等が明記されているケースもありますが,日常業務の中では、いまだに各種相談員(時には介護職等)との役割分担があいまいな光景も見受けられます。
逆に言うと、「職責があいまい」な部分があるゆえに、新たな基準・加算が設けられると、そこで生じる実務の一部を施設ケアマネが背負うケースも増えがちです。たとえば、研修計画を立案したり、新たな委員会の運営を担ったり、さらには「各種対外連携」での交渉等に動かざるを得ない状況も増えそうです。
特に管理者の業務が増える中では、まさに施設ケアマネが「管理者助手」のような立場になる可能性もあります。そうした状況を考えたとき、本当にそれが施設ケアマネの職責なのかを改めて考える必要があるでしょう。
協力医療機関をめぐる新たな運営基準でも…
このあたりの課題が特に大きくなると思われる要因が、今改定での施設系・居住系サービスにおける「協力医療機関」との関係です。
この協力医療機関との連携に関しては、新基準で整えられた土台の上に、新たな加算が設けられ、診療報酬側でもそれに対応するという構造になっています。
【新基準(1)】協力医療機関の要件について、利用者の病状急変時などでの相談対応や入院受入れの体制が確保されている等が求められました。施設系は3年の経過措置を設けて「義務化」されます。居住系については「相談対応」と「診療」を行なう体制について「努力義務」とする規定が設けられました。
【新基準(2)】(1)の協力医療機関との間で、1年に1回以上、利用者の病状急変時などの対応を確認することや、その協力医療機関の名称等の自治体への届出が義務づけられました。
診療報酬側での「対応」はどうなっている?
この新基準に対応する診療報酬上の見直しも確認しておきましょう。たとえば、「協力対象施設入所者入院加算」の新設です。利用者の病状急変時などに際し、協力医療機関が入院の必要性を判断し、実際に入院を受入れたうえで算定されます。
また、病状急変時の「往診」についても、新たな評価が設けられてました。こちらは「介護保険施設等連携往診加算」といいます。さらに、在宅療養支援病院等の施設基準では、介護保険施設等から協力医療機関となることを求められた場合、その求めに応じることが「望ましい」という規定も設けられています。
こうして見ると、先の介護報酬側の新基準に対応した規定であることがわかります。ただし、注意したいのは、診療報酬側の規定では「協力医療機関としての責務」の対象として、介護保険施設等となっているものの、その具体的な定義が「介護保険施設」にとどまっていることです。つまり、居住系サービスについては記されていません。
このあたりは、先の【基準(1)】の施設系における「義務化」と、居住系における「努力義務化」の差なのかもしれません。ただし、今後の解釈基準などで変わってくる可能性もあるので注意しましょう。
施設ケアマネが「情報連携」の裏方に⁉
先の介護報酬側の新基準を土台としつつ、そのうえで設けられたのが「協力医療機関連携加算(特定施設においては「医療機関連携加算」の要件見直し)」です。これは、施設系・居住系側と協力医療機関との間での定期的な会議を開催することを評価したものです。
その会議要件では、利用者の現病歴の共有が求められています。つまり、組織全体としての体制確認だけでなく、利用者一人ひとりについての情報連携を求めているわけです。その点では、かなり実務的に踏み込んだ加算ということになるでしょう。
ここで先の「施設ケアマネ」の話に戻ります。上記はあくまで加算要件ですが、基準上の急変時の体制確認でも「その施設・居住先の利用者の状況」について、ある程度協力医療機関と共有する必要があるでしょう。
そうなると、施設等ケアプランの作成を通じて、利用者の現病歴などの情報を一元的に把握する施設ケアマネに、「協力医療機関との連携窓口」として白羽の矢が立つ可能性があります。やりとりの前面に出るのは管理者としても、情報共有の裏方として施設ケアマネが助手的な立場に就くことは考えられます。
そうなると、施設ケアマネの職責が「際限なく拡大する恐れ」が広がります。この点を考えたとき、施設ケアマネの職責について、施設系・居住系ともに意識的に明確化を進める必要があるのではないでしょうか。
この施設ケアマネの課題については、2024年度改定後の効果・検証においても、「ケアマネの処遇改善」に関連させつつ、調査を進めることが必要になりそうです。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。