
厚労省の「ヘルスケアスタートアップ(SU)等の振興・支援策検討プロジェクトチーム(PT)」が示した中間とりまとめ。介護現場が注目したいのは、「介護テック(テクノロジー)」にかかる提言でしょう。ICT等の導入支援補助金の拡充も示される一方、現場としては介護報酬との兼ね合いも気になります。
生産性向上推進体制加算をどこまで拡大?
2024年度改定では、テクノロジー等の活用によるサービスの質の向上や業務負担の軽減に向けた取組みを評価する「生産性向上推進体制加算」が誕生しました。対象は、施設系・居住系・短期入所系・小多機系です。
これについて、冒頭のPTの提言では、この生産性向上推進体制加算の「対象サービスの見直し」に言及し、「在宅も含むテクノロジー活用にかかるエビデンス(科学的根拠)を収集する」としています。
この場合の「在宅」とは、通所系や訪問系が考えられますが、居宅介護支援も含まれる可能性も頭に入れる必要があるでしょう。
というのは、4月15日からスタートした「ケアマネジメントにかかる諸課題に関する検討会」で、論点の1つである「ケアマネジメントの質の向上に向けた取組みの推進」に以下の文言が示されているからです。それは、「ケアマネの業務効率化・負担軽減」をめぐり、「ケアプランデータやテクノロジーの活用」についての対応をテーマとしている点です。
ケアプランデータ連携システム活用のその先
2024年度改定での居宅介護支援にかかるテクノロジー等の導入に向けたしくみは、以下の2つがあります。(1)テレビ電話装置等を活用したモニタリングを可能としたこと。(2)逓減制を緩和した区分IIで、ケアプランデータ連携システムの活用を要件としたことです。
特にケアプランデータ連携システムについては、介護情報の利活用に関連したデータ活用が議論されています。今改定で「ICT活用等」が唐突に「ケアプランデータ連携システムの活用」に置き換えられ、しかもIIの要件として必須になった点を考えると、上記のようなデータ活用の汎用性を上げるという厚労省の思惑がはっきり出ているといえます。
ちなみに、2024年度の老人保健健康増進等事業(以下、老健事業)の公募テーマでは、「AIを活用したケアプラン作成支援にかかるケアプランデータの利活用に関する調査研究事業」が上がっています。ケアプランデータ等をAIに学習させるうえでの実装上の課題を調査研究の対象としたわけです(「適切なケアマネジメント手法」の項目も、AIエンジン開発に活用することが目指されています)。
老健事業の公募テーマから浮かぶビジョン
この場合の「ケアプランデータ」が、現行の「ケアプランデータ連携システム」にかかるデータと一致するものかどうかは不明です。とはいえ、厚労省が同システム活用の拡大に躍起になる点を考えても、単に「事業所間のデータ連携」にとどまらないデータ活用が視野に入っているのは確実でしょう。
となれば、先の老健事業の公募テーマに見られるように、ケアプラン作成でのAI活用が次期改定のテーマになる可能性は高いといえます。先々の制度改正を見すえる場合、この老健事業の内容がヒントになるからです。
たとえば、今改定で科学的介護推進体制加算の情報様式や科学的介護推進体制加算の利用者のQOL指標において、「生活・認知機能尺度」が導入されました。これも2022年度の老健事業で採択されたものです。
加えて、やはり2024年度の老健事業の公募テーマには、「居宅介護支援へのテクノロジー活用に関する調査研究事業」も上がっています。AIだけでなく、さまざまなテクノロジーをケアマネ実務に導入していくうえでの課題を明らかにするというものです。
現場のケアマネのメリット実感を高めるには
こうした流れを見すえると、先のPT提言における「生産性向上推進体制加算の対象サービスの見直し」においては、居宅介護支援も議論の対象に含まれると考えられます。
その場合、生産性向上の推進にかかる運営基準の適用も視野に入ってきます。今改定で設けられた同運営基準は、やはり施設系・居住系・短期入所系・小多機系が対象で、以下の取組みを求めたものです。
それは、(1)「利用者の安全ならびに介護サービスの質の確保、職員の負担軽減」にかかる現場の課題の抽出・分析を行なうこと。(2)(1)の解決に向けた方策を検討するための委員会を開催すること─です。完全義務化に向けては、3年間の経過措置があります。
なお、(2)の委員会開催については、生産性向上推進体制加算の要件にもなっています。仮に、在宅系および居宅介護支援にも同加算が適用される場合、同時に先の運営基準も設定されることになるでしょう。
問題は居宅介護支援事業所の意識が、そうした改革に向くのかどうかです。たとえば、今改定におけるオンラインによるモニタリングやケアプランデータ連携システムの活用に向けた意識の高まりは、現場のケアマネから話を聞く限り、決して芳しくはありません。
確かにケアマネ不足の中で「業務効率化」についての関心は高いのですが、そこから一足飛びに「AIによるケアプラン作成支援」等の浸透が図れるかどうかと言えば、メリット面の実感が乏しいのが現実のようです。やはり、ケアマネ向けの大胆な処遇改善策を同時並行で考えることが不可欠かもしれません。
【関連リンク】
厚労省、介護現場のテクノロジー導入支援を拡充へ スタートアップ育成で生産性向上を加速 - ケアマネタイムス

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。