第9期介護保険事業計画期間(2024~2026年度)における、第1号保険料(65歳以上)の月額平均が公表されました。2026年度までの3年間で6,225円と、第8期の6,014円からプラス3.5%となっています。この金額から、どのような状況が見えてくるでしょうか。
プラス3.5%という数字をどう評価する?
人口のさらなる高齢化で、地域における介護サービスの需要拡大が見込まれる中、65歳以上が負担する保険料の拡大は「もはや限界」という声も聞かれます。制度の持続可能性を論じるうえで、介護保険の財源構成の見直しというテーマも浮上する可能性があります。
確かに、第8期との比較で「プラス3.5%」という数字は、第7期から8期の伸び率「プラス2.5%」を1%上回っており、保険料を負担する立場から見れば、「非常に厳しい」というのが実感でしょう。ただし、第9期に含まれる2025年度に「団塊世代が全員75歳以上を迎える」というエポック(時代の特色)を想定すれば、「プラス3.5%でよく抑えられた」という感想も個人的にはあります。
実際、厚労省が第6期(2015~2017年度)の時点で見込んでいた2025年度(第9期)の1号保険料額は8,165円。「現状のまま行けば…」という仮説に立ってはいるのでしょうが、実際の第9期保険料額は2,000円近く低くなっています。逆に言えば、それだけ財源が削られてるわけで、介護サービス基盤の存立にかかわるという見方もできそうです。
「据え置き」「引下げ」の保険者は意外に多い
もちろん、保険者としては、「これ以上の引き上げは、物価上昇も著しい中、地域の高齢者の生活を危うくする」という危機感もあるでしょう。そのあたりは、保険者の1号保険料への対応状況からも浮かんできます。
今回の公表データによれば、前期(第8期)から(1)「保険料基準額を引き上げた」という保険者は45.3%、(2)「据え置いた」という保険者は37.2%、(3)「引き下げた」という保険者は17.5%となっています。
これを過去の介護保険事業計画期間と比較すると、(1)は第6期で「94.2%」だったので約10年でほぼ半減となりました。逆に、(2)は「4.1%」、(3)は「1.7%」とかなり低い数字です。特に(3)などは、今回の第9期では10倍近く増えていることになります。
もっとも、基準額について「据え置き」や「引下げ」が増えたのは、保険者の危機感もさることながら、それを後押しする要因があることも見逃せません。それは、第1号保険料をめぐり、第9期から所得に応じた標準段階の多段階化がなされたことです。
保険料の多段階化という要因がもたらすもの
ご存じのとおり、第9期(2024年度から)は、標準段階が9段階から13段階への見直しが図られました。あくまで「標準」ではありますが、標準段階が増えれば調整交付金のあり方も変わってきます。そのあたりも含めて、保険者としては、ある程度第1号保険料の高騰を抑えることができます。
同時に、標準段階が増えることで、それをさらに上回る段階設定を行なう保険者も増えてくる可能性があります。その結果、所得の高い高齢者の保険料が、基準額の伸び以上に高く設定されやすくなります。つまり、基準額は「据え置き」や「引下げ」になったとしても、その分を高所得者の保険料引上げによってカバーするという構図になるわけです。
「所得の高い人には、それなりの負担を求める」という応能負担の原則を強化することは、介護保険制度の持続可能性を高めるうえで、被保険者の理解を得やすくするための1つの方向性であることは間違いないでしょう。
ただし、高所得者とはいえ、基準額の伸びを上回る速度で保険料が上がっていくとなれば、当事者としては穏やかではありません。「それに見合ったサービスが本当に受けられるのか」という疑問も強まりがちで、それが現場の従事者(居宅の場合は特にケアマネ)との信頼関係に影を落としかねません。
堂々巡りの悪循環を脱するにはどうすれば?
ここまでの第9期保険料をめぐる見方を整理すると以下のようになります。
A.プラス3.5%の保険料アップは被保険者にとって厳しいが、実は地域のサービス基盤(従事者の処遇改善を含む)を拡充するうえで必要な財源確保のレベルには達していない。
B.とはいえ、保険者としては、これ以上第1号保険料を引き上げることは、地域の高齢者の生活を危うくするという危機感がある。
C.結局、高所得者に負担を強いるという流れにならざるを得ないが、当事者にとっては思いの他急カーブの保険料アップとなる。「それに見合ったサービスが確保されるか」への関心は高まるが、A.の状況から「十分な納得が得られない」となりやすい状況にある。
こうして見ると、A.~C.が堂々巡りの悪循環となり、そのストレスは被保険者のみならず、高齢者を介護する世代(ビジネスケアラーなど)に蓄積することになります。利用者・家族とサービス提供者・ケアマネとの間で深刻な分断を生む恐れも生じ、それが介護人材のさらなる離脱等につながりかねません。
こうした状況を見すえた場合、第9期の保険料設定を機に、やはり冒頭で述べた財源構成のあり方、つまり公費割合の拡大は緊急の課題となっていくはずです。2027年度の制度見直しの動きは、それまで以上に大きなものになることを頭に入れておきたいものです。
【関連リンク】
65歳以上の介護保険料、全国平均が月6225円に上昇 45%の市町村が引き上げ - ケアマネタイムス (care-mane.com)

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。