2023年に「共生社会の実現を推進するための認知症基本法(以下、基本法)」が成立し、国が進めるべき施策上の責務も明記されました。これを受け、政府の認知症施策推進関係者会議での意見交換をもとに、認知症施策推進基本計画や基本的施策の素案が示されています。
第1期計画期間は2029年まで。となれば…
今回の基本計画は第1期と位置づけられ、その期間は2029年までのおおむね5年間と設定されています。今回の基本計画が正式に策定された場合、2027年度での介護保険制度の見直しや介護報酬・基準改定にも反映されることは間違いないでしょう。
すでに基本法の制定を受けて、2024年度改定では認知症BPSDの予防・早期対処を目指した「認知症チームケア推進加算」が誕生し、人員配置要件にかかる新たな研修カリキュラムも提示されています。
同加算については、施設系および認知症GHに限られるほか一定の実務ハードルも要される加算なので、「自事業所には関係ない」と見る向きもあるかもしれません。しかし、先に述べたように2027年度改定で基本法にのっとった基本計画が策定されれば、認知症対応にかかるさらなる加算・基準が誕生する可能性を視野に入れる必要があります。
認知症施策の効果を「評価する指標」も
たとえば、素案では第1期の重点目標の2番目に、「認知症の人の生活においてその意思が尊重されていること」が示され、認知症の人の意思決定の支援にかかる研修の実施などがアウトプット指標に含まれています。
意思決定支援といえば、ケアマネにとっては、法定研修の新カリキュラムに反映されている「適切なケアマネジメント手法」における中心的なテーマの1つです。この意思決定支援への取組みを、ケアマネジメント現場等に浸透させていくうえで、何らかの基準や報酬上の手当てが施されることも想定されます。
こうした流れを見すえたうえで、今回の素案で注目したいのが、示された4つの重点目標それぞれに、施策効果を評価するための指標が設けられている点です。この指標をKPIといい、国の施策においては財政上の費用対効果を測定する際などによく用いられます。
共生社会の実現という「社会のあり方」に関するテーマで、KPIという指標がふさわしいかどうかは議論もあるでしょう。注意したいのは、こうした指標が示されることで、各重点目標の達成に向けた予算措置(報酬上の評価含む)も影響を受けやすくなることです。
国民による「認知症の人への態度」も指標化
各重点目標におけるKPIについては、(1)取組み状況にかかる「プロセス指標」、(2)各取組みの中身の状況を評価する「アウトプット指標」、(3)(1)、(2)を通じての共生社会の実現状況を評価する「アウトカム指標」の3段階で成り立っています。特に(3)については、社会状況を数字で表すということ自体が適正なのかどうかも問われることになるでしょう。
たとえば、重点目標3は「認知症の人・家族等が他の人々と支え合いながら地域で安心して暮らすことができること」となっています。そうした状況を数字で表すことができるのか、と思われるかもしれません。
そのアウトカム指標の1つに「国民における認知症の人への態度尺度」が示されています。素案の注釈によれば、これは「認知症の人と躊躇なく話すことができる」など、認知症の人に対する行動の傾向が受容的または拒否的であるかを測る尺度とされています。
これについては社会医学の分野ですでに研究が行われ、調査対象者に認知症に関する考え方(例.認知症の人は回りの人を困らせることが多い、など)について、「そう思うか否か」を質問するといった手法が用いられています。研究では、認知症の人に対する態度を把握するうえで有用性があるとしています。
取組みの目的が本末転倒になることへの懸念
問題は、こうした調査について、誰を対象に、誰がどの程度の規模で行なうのかという点でしょう。自治体レベルで行なうのか、支援者団体や大学等の期間などを通じて行なうのかなど、地域での協働体制も含めて、対応を協議していくことが必要かもしれません。
いずれにしても、こうしたアウトカム評価の重視が先に立ってしまうと、「評価のための取組み」といった本末転倒も生じる懸念があります。国としては、PDCAサイクルを機能させるなどの取組みを推進することになるのでしょうが、その前に本末転倒にならないための体制整備に配慮しなければなりません。
気になるのは、こうした評価のしくみにもとづく計画が推進されるとなった場合、2027年度の介護保険制度にも反映される可能性です。先に述べた本人の意思決定の支援についても、ケアマネジメント上で何らかの評価指標が誕生することも考えられます。
施策評価そのものが決して悪いわけではありませんが、これを「評価のための取組み」にしないためには、かかわる人材のすそ野を広げつつ、活動しやすい環境をいかに整えるかを「土台」としなければなりません。
国民への理解を進めるうえでも、大切なのは国民が認知症への理解に前向きになれる心身の余裕があることで、そのための生活の安定という「土台」が不可欠のはず。そうした前提にどこまで踏み込めるかが問われます。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。