福祉用具選定の基準が20年ぶり全面改定。 対医療連携の強化から見える狙い

2024年7月、厚労省より「介護保険における福祉用具の選定の判断基準」が示されました。これは、2004年6月に出された判断基準を20年ぶりに改定したものです。改定前と比較して、選定に向けた視点を5つに分けて掘り下げている他、医師・リハ専門職への意見の確認ポイントが詳細に示されています。

医師・リハ職等に意見を求めるケースとは?

現場のケアマネにとっての注目点は、やはり「医師・リハ専門職等への意見の確認」でしょう。前提となるのは、要介護者が複数の疾患や障害を抱える中、本人の状態像に与える予後予測が難しい状況も多いという点です。

この前提に立ったうえで、今回の判断基準では、医師・リハ専門職等の意見を求めることが望ましいというケースが示されています。たとえば、パーキンソン病や脊髄小脳変性症などの進行性疾患により状態の変化や悪化が起こりやすい場合。起立性低血圧など血圧の変動がある場合。筋緊張の亢進(高い度合いまで進むこと)や低下、変動がある場合など。

これらは、福祉用具の選定だけでなく、その他のサービス提供のあり方にも大きくかかわるという点で、主治医等への意見照会などを通じた重点的な聴取が必要になります。

また、要介護度によって原則対象外となる種目についても、たとえば「がん末期の急速な状態悪化」や「心疾患による心不全」などが予見される場合は、例外的に給付対象となることがあります。この場合も、(主治医の意見書だけでなく)医師・リハ専門職等への随時の意見照会を適宜行ないつつ、記録に残すことが利用者の利益確保につながります。

選択制の留意事項では医師の意見照会を明記

こうした福祉用具の選定・提案で、医師やリハ専門職からの意見照会・聴取が重視されるという点で思い浮かぶのが、今改定での「販売・貸与の選択制」にかかる実務でしょう。

たとえば、選択制にかかるケアマネ実務の解釈基準では、選択制の対象福祉用具の提案を行なう際、アセスメントやサ担会議の結果に加え、「医師やリハビリ専門職から聴取した意見」を踏まえることが明記されました。

選択制が導入される前の解釈基準でも、ケアプランに福祉用具(貸与・販売)を位置づける場合に、サ担会議の開催による必要な理由の記載は求められていました。今回の選択制の導入では、ここに「医師・リハビリ専門職等への意見照会・聴取」が加わったわけですが、これが選択制のケースにとどまるものなのかという疑念を抱く人もいたでしょう。

そのあたりが、今回の判断基準の提示によって明らかになったと言えます。つまり、選択制に該当するか否かにかからず、介護保険による福祉用具をプランに位置づける際に、医師・リハビリ専門職等の意見を重視することが明確化されたことになります。

2022年の財務省の指摘に対応した?

その背景の1つとして浮かぶのが、以下のような事情です。2022年に、財務省の審議会で「ケアマネジメントへの利用者負担導入」の提案に絡み、「介護報酬算定のため、必要のない福祉用具貸与等によるプラン作成が行われている」という実態が指摘されました。

職能団体などから強い反発も起こった指摘ですが、厚労省としては、この時の指摘が念頭にあったと考えられます。つまり、福祉用具をケアプランに位置づける際には、ケアマネ1人の判断ではなく、医師やリハビリ職を含めた多くの職種の知見による根拠が反映されている──この点を明確にすることで、財務省の指摘に対応したというわけです。

もちろん、これはうがった見方かもしれせん。注意したいのは、利用者負担の導入などが今後大きな議論となる中で、ケアマネジメントの社会的価値をいかに高めるか(それによって、利用者負担が発生した場合の納得をいかに創出するか)という施策が、今後強化されていくのは間違いないということです。

重要なのは医療職との対等パートナーシップ

その方策の1つが、医師など介護以外の専門職のかかわりである──こう述べると、「ケアマネジメントが医療の傘下に位置づけられるようで複雑な気持ちになる」というケアマネもいるかもしれません。しかし、先に述べた福祉用具をめぐる展開を見ても、厚労省としては、ケアマネジメントの社会的価値の向上に向け、「医療等との関係性」を戦略の1つに位置づけていくことは十分に予想されます。

問題は、医療側の意識です。先進的なビジョンを持つ医師は、「これからの時代、ケアマネは重要(かつ対等)なパートナー」と位置づけ、地域の医師会を巻き込んでケアマネとの連携強化を図る動きを早くから進めています。一方で、いまだにケアマネへの情報提供も形ばかりで、連携にかかる熱が低いという医師(および医師会)も少なくありません。

こうした意識の格差が残る限り、ケアマネによる医療職等との情報連携も実のあるものにはなりません。厚労省の描くビジョンも、ケアマネにとって医療職との有益なパートナーシップを築くことにつながらず、結局は実務負担を増やすだけとなりがちです。

あくまできっかけですが、今回の福祉用具の判断基準をテキストに、地域の医師会とケアマネ連絡会での合同研修などを進めるという取組みも考えられます。厚労省としても、今回の判断基準を介護側に示すだけでなく、医師会等にも働きかけることが必要でしょう。

【関連リンク】

厚労省通知Vol.1296 - ケアマネタイムス

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。