新たな認知症薬「ドナネマブ」承認。 ケアマネの対応フローにも影響が⁉

今年9月24日、厚労省が認知症新薬の「ドナネマブ(販売名:ケサンラ)」の国内における製造販売を了承し、11月13日の中医協で保険適用も認められました。2023年に保険適用が認められた「レカネマブ(販売名:レケンビ)」に続く、アルツハイマー病の原因とされる物質に直接作用する2例目の薬となります。

承認済みのレカネマブとの違いはどこに?

レカネマブ以前の認知症薬にはドネペジル(販売名:アリセプト)などがありますが。

あくまで神経伝達物質の働きを補ったり、神経細胞を守るなどの働きによって認知機能の低下を抑えるというものでした。これに対し、アルツハイマー病の原因とされる物質(アミロイドβというタンパク質)に直接作用するという点で注目されたのがレカネマブです。

その保険適用からほぼ1年で、同等の作用が認められた薬が再び医療現場で投与される環境が整ったことになります。まず気になるのは、今回承認されたドナネマブとレカネマブの違いは何かという点でしょう。

厚労省の資料によれば、いずれもアミロイドβを減少させる作用が認められるという点では同じです。ただし、脳内で結合するアミロイドβの種類に違いがあり、ドナネマブの方は「プラーク(塊)化」した状態を取り除く効果があるとされています。

とはいえ、どちらが効率よくアミロイドβを除去できるかは明確ではありません。一方で、仮に利用者がいずれかの投薬を受けるとなった場合、ケアマネとして気になるのは、その頻度や期間、そして費用負担でしょう。

投薬頻度は? 利用者の負担はどうなる?

上記の比較をすると以下のようになります。

●レカネマブ⇒体重50㎏の人であれば、1回あたり500mgを2週間に1回のペースで原則1年半ほど投与します。費用は年換算で約298万円となっています。

●ドナネマブ⇒1回700mgを1か月に1回ペースで3か月投与。その後は1回1400mgをやはり1か月に1回投与します。投与開始から1年を目安にアミロイドβプラークの除去を評価し、投与終了の可否を判断します。費用は年換算で約308万円となります。

ちなみに費用については、いずれも患者負担は1~3割。さらに高額療養費が適用されるので、70歳以上で所得区分が「一般」の人であれば、年間14万4000円(月あたり1万8000円)に抑えることができます。

高額療養費まで適用されたとして、いずれの薬を使った場合でも(所得区分にもよりますが)費用負担に大きな変化はなさそうです。気になるのは副作用ですが、脳がむくんだり少量の出血が見られるというのも、両方の薬に共通します。投与に際しては、医師による十分なリスク評価も行なわれます。

承認薬の追加で利用者の関心も高まる?

ここまで見る限り、レカネマブとドナネマブでは大きな違いはないものの、今後は実際に投与された人によって、アルツハイマー型認知症の進行がどれだけ抑えられたかという臨床上の効果比較も報告されてくるでしょう。

なお、いずれの薬も「アルツハイマー病による軽度認知障害(MCI)および軽度の認知症の進行抑制」が目的です。中重度の認知症の人は、原則対象には想定されていません。

とはいえ、複数の薬の登場によって認知症薬への社会的関心が高まることは確実で、ケアマネとしても利用者から「どちらが効果あるか」などの質問が出る可能性もあります。

もちろん、ケアマネとしては安易な推断や推奨はできません。ただし、認知症専門医などからレクチャーを受けつつ、確かな情報を常に更新していくことは必要でしょう。というのは、こうした薬が続いて保険適用されると、時には真偽不確かな情報もセンセーショナルに発信される懸念が高まるからです。

たとえば、利用者等からの問い合わせが増えた場合、いざという時に相談できる認知症専門医との信頼関係を、今まで以上に築いておくことも必要になりそうです。

利用者が投薬を受けた場合のケアプランは?

もう1つ頭に入れておきたいのは、仮に利用者が「投薬を受ける」となった場合、いずれの薬においても、投与前の検査から点滴投与、一定投与後の評価など定期的な通院・受診が必要になることです。そうした通院支援等について、当然ケアプランで支援計画を位置づけることが視野に入ってきます。

仮に投薬に際して副作用が生じた場合、それが軽微であっても、利用者の生活に影響がおよぶことも想定されます。担当医師との情報共有を前提として、そのつどのケアプランの見直しも必要になるかもしれません。

もちろん、こうした定期通院や特別な投薬にかかるケースは、他の疾患治療でも同様です。通院による抗がん剤投与などがある場合は、やはり副作用が生じることを見すえたうえでのプラン見直しも必要でしょう。そうした定期通院・投薬にかかる対応フローは、事業所としても知見を積み重ねているはずです。

とはいえ、そうしたフローに関して、今後も新たな承認が増えゆくことも考えられる認知症薬を考慮したブラッシュアップを図ることが求められます。その点でも、先に述べた信頼できる認知症専門医と連携しつつ、新薬活用の時代においてケアマネの知見を意識的に高めていくことも考えておきたいものです。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。