11月28日から臨時国会スタート。 介護分野の課題にどこまで踏み込める?

10月27日の衆議院総選挙から間もなく1か月。特別国会での首班指名等を経て、11月28日から補正予算案等を審議する臨時国会が開かれます。いわゆる「103万円の壁」などに注目が集まっていますが、社会保障分野も課題は山積みです。業界団体等も多くの要望書を出していますが、反映されるのでしょうか。

業界団体からも切実な要望が出される中で

介護事業所・施設の倒産件数が過去最多となり、物価高騰による現場のコスト増や賃金上昇が他業界に追いつかないことによる人材流出の危機など、わが国のセーフティネットの一角が崩れかねない危機を迎えています。

全国介護老人福祉施設協議会(老施協)では、施設の給食関連の赤字が膨らみ、コスト削減によるメニュー見直しが強いられている実態も報告されました。これなどは、利用者の栄養悪化につながりかねない状況です。

また、人材流出を防ぐための従事者の賃金アップですが、2025年3月末で介護職員等処遇改善加算の経過措置が終了します。特に職場環境等要件のハードルが上がる中、小規模事業所に対する緩和策があるとはいえ、そのまま高い区分を維持できるかどうかについては、ぎりぎりの状況という現場も見られます。

さらに、2024年度改定による訪問介護の基本報酬引下げにより、事業所の稼働率を上げることが困難といった状況がじわじわと広がっています。たとえば、末期がんの利用者が在宅での看取りを望んでいても、訪問診療・看護だけでは継続的なサポートは困難ゆえに、訪問介護の役割が重要です。それが困難になれば、本人の望む終末期のあり方が叶えられないケースも急増しかねません。

閣議決定された経済対策に漂う「既視感」

政府は、28日からの臨時国会に先がけ、11月22日に補正予算の土台となる経済対策を閣議決定しました。補正予算の事業規模は39兆円で、介護分野では介護人材確保・職場環境改善等に向けた総合対策や2025年度予算の前倒しも視野に入れた訪問介護の提供体制の確保が示されています。さらに介護施設等に対する「重点支援地方交付金」を活用した物価高騰にかかる支援なども見られます。

ただし、いずれの施策も既視感があるのは否めません。たとえば、介護従事者の処遇改善では、2024年度の新処遇改善加算による措置を「確実に届け」としたうえで、「生産性向上・職場環境改善等によるさらなる賃上げ等を支援する」としています。

これなどは、2024年度改定の施策を踏襲しつつ、2025年3月末での経過終了後も算定実績を上げるという方向性です。厚労省は、2025年4月からの算定を進めるためのサービス別・現状の算定区分別(経過措置中のⅤ含む)に必要な実務が検索できるサイトを公開しています。こうした広報的な措置に力を入れるという内容にとどまるわけです。

与野党過半数割れで補正予算審議も紛糾⁉

それ以外でも、テクノロジー・ICT機器の活用、経営の協働化など、すでに厚労省が進めている施策の「推進」が前提となっています。訪問介護についても、基本報酬引下げの見直しには言及しておらず、厚労省が2025年度予算の概算要求で示した支援パッケージ事業の前倒しなどにとどまる公算が大です。

本稿が掲載されるタイミングでは、具体的な補正予算案は出ている可能性もありますが、上記のような方針が土台となるならば、介護分野に関する審議は紛糾しそうです。

総選挙後で与党が過半数割れとなった今、補正予算がなかなか通らず、予算の組み換えなども行なわれるかもしれません。野党側も補正予算の枠組みに影響を与える各種法案を次々と出してくるでしょう。仮にそうした法案が賛成多数で可決されれば、今回閣議決定した方針も抜本からの見直しが想定されます。

当面大きな動きが予想される3つのポイント

そうした状況を見すえたうえで、当面動きそうな施策のポイントを上げてみましょう。

A.介護職員等処遇改善加算の要件緩和

2025年4月からのハードルアップのうち、職場環境等要件の生産性向上にかかる「2つ以上」「3つ以上」への対応緩和がまず焦点となりそうです。現行の小規模事業所の緩和策も、複数事業所による共同化での実施でOKとしつつも取り組むべき項目が多いので、この部分の緩和が図られるかどうかも注目です。

B.訪問介護等の基本報酬の引下げ撤回

訪問介護の基本報酬引下げの見直しについては、野党側から期中改定による見直しのほか、その改定までの間は(公費での)補助金の支給を定める法案が出されています。期中改定については、保険者等の実務負担が増えるという点で紛糾が予想されます。その点を考えると、まずは補正予算において訪問介護の基本報酬引き上げ分と同等の補助金支給を位置づけることが議論の対象となりそうです。

C.物価高や他産業賃上げを補完する支援

介護9団体の要望書では、他産業の賃上げ率との差を埋める3%分のほか、物価高騰対策として運営状況に応じて柔軟に活用できる財政支援を求めています。このあたりは補正予算審議での論点となります。問題は、冒頭で述べた「103万円の壁」等に関する与党の歩み寄りにより税収減となる場合、財源をどこで賄うかという議論も浮上しがちな点です。

28日から始まる国会審議では、まず上記の3点に注目してみましょう。

 

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。