深刻化する認定期間の増大をどう解決? 当面のカギはやはり「主治医の意見書」

要介護認定に要する日数が平均で40.2日、中央値で39.4日──これだけの期間、区分支給限度基準額等が定まらない状況は、利用者や担当するケアマネにとっても大きな負担です。しかも、コロナ禍以降でこの日数は上昇の一途をたどっています。この短縮に向け、どのような方策が考えられるでしょうか。

規制改革実施計画で示された8つの改革

要介護認定の迅速化を目指すため、2024年6月に政府が閣議決定した規制改革実施計画では、8つの改革内容が示されました。

A.自治体ごと等の認定期間等の情報を、毎年厚労省のHPで公開すること。

B.調査から審査の各段階について、各保険者が目指すべき目安となる期間の設定等。

C.認定審査会の簡素化対象の拡大や事務負担軽減、AI活用のモデル事業実施。

D.申請前に主治医意見書を依頼し、申請時に提出することを検討。

E.がん等の疾病で心身の状態が急激に悪化するケースについて、医師の診断書の提出を要件に、速やかに認定を行なう方法を検討。

F.主治医意見書の提出等のデジタル化や認定審査会のオンライン開催など、認定に関する業務のデジタル化を推進。

G.一次判定データについて、在宅介護等の幅広い利用者データを追加して更新。認知症の認定項目等の検討・見直しも実施。

H.要介護認定におけるAI活用について、必要な調査研究を実施。

スケジュールとしては、A.、B.は2024年度中、F.、H.は2025年度からそれぞれ実施。C.、D.、E.、G.については、(次期改定前の)2026年度までに結論を出すとしています。

規制改革WG内ではより大胆な改革案も

まずは、A.によって全国規模の状況を公開し、B.によって認定審査期間が30日以内となるように「審査の各段階」の期間を設定するという作業が行われます。これにより、A.、B.を通じて都道府県、保険者側の改善に向けた取組みをうながす目的もあります。

ちなみに規制改革推進会議のWGでは、審目標期間のさらなる短縮化を求める声も上がっていました。たとえば「14日」という半分以下への設定を求める意見もあり、これによって短縮化取組みの加速をうながす狙いです。

ただし、ここまでの目標設定を行なった場合、現状の審査の枠踏みそのものを変える必要もあるでしょう。実際、WG内では「一次判定と二次判定を統合すべし」という意見も出ていました。あるいは、二次判定をAI分析に委ねるという意見も見られます。

今回の実施計画では、上記のような目安日数の大幅な短縮や一次・二次判定の統合案は採用されていません。AI判定についても、モデル事業や調査研究の実施にとどまっています。ただし、2024年度終了時点でフォローアップされる予定であり、それを受けて2025年度以降に上記のような改革への踏み込みが再び議論される可能性はあるでしょう。

現状でも自治体の取組みは進んでいるが…

では、現状における自治体の取組み例はどうなっているのでしょうか。

たとえば、認定調査では「デジタル端末でのアプリケーション等の活用により、転記作業等を不要にすることによる業務の効率化」が見られます。認定調査会では、「オンライン開催や資料のペーパーレス化による印刷・郵送等にかかる業務効率化」あるいは「近隣の市町村による事務組合での合同実施で、実施回数の確保を図る」などが上がっています。

確かにこうした取組みを蓄積させていけば、審査期間の短縮もある程度は図れるかもしれません。しかし、先に述べた「たとえば14日間」のような目標が将来的に出てきた場合、上記のような取組みだけでは、なかなか追いつかないことも想定されます。

となれば、もう1つの「当面の課題」として注目されるのは、やはり「医師の意見書」の作成等にかかる期間の短縮です。

主治医意見書を次期診療報酬改定のテーマに

自治体の取組みとしては「デジタルデータでのやり取り」や「医療機関への進ちょくの確認」などが上がっています。そして、今回の規制改革実施計画では、「申請前の入手」を2026年度までに結論づけるとしています。

ただし、たとえば現状の取組みにある「デジタルデータ化」などは、すでに多くの医療機関でDXが進んでいる現在、これ以上の効果を上げるのは困難かもしれません。また、「申請前の入手」についても、診療時での「主治医側の申請の促し」等がなければ、結局は利用者側が介護の必要性を認識することが起点となるため、利用者の体感としては大きな短縮にはつながらない可能性もあります。

となれば、上記の「主治医の促し」を含め、医師側の意識を高めるためのさらなる仕掛けがカギとなりそうです。診療報酬上では、地域包括診療料等の算定で「主治医の意見書作成」を要件の1つとしていますが、これをさらに進めて「申請から●日以内」とか「患者への要介護認定の意思確認」などを基準上で義務づけるなどの方法も考えられるでしょう。

2026年度には、介護報酬より一足早く診療報酬の改定が行われます。そこに向けた中医協での議論の踏み込みがなされるよう、介護現場や自治体側からの強い要請も望まれます。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。