
2027年度の制度見直しに向けた介護保険部会の議論ですが、今期はやや前倒しでのスタートとなりました。この背景には、新たな検討会等の進ちょくが絡んでいます。その検討会の1つが、1月9日にスタートする「2040年に向けたサービス提供体制等のあり方検討会」。期待される論点などを掘り下げます。
議論のベースは人口減少スピードの地域差?
今検討系が「サービス提供等のあり方」と題されていることで、現場としては、サービスの枠組み再編(早ければ2027年度の制度見直しに反映)が行なわれる可能性も気になるところです。残念ながら、本稿執筆が7日なので、第1回の検討会はまだ開催されていません。そこで、ここでは議論の開始に先がけて注目したいポイントを取り上げます。
介護保険部会で提示された同検討会の概要を見ると、主軸は「人口減少スピード(高齢者人口の変化)の地域差が顕著となる中」での、サービスの需要の変化に応じたサービスモデルの構築や支援体制」です。その状況に応じた人材確保策や雇用管理、医療・介護連携、認知症ケアのあり方なども議論の対象ですが、「人口減少スピードの地域差」をベースとした議論となるのは間違いなさそうです。
そうした中で注意したいのは、地域ごとの「人口減少スピード(高齢者人口の変化および労働力人口の減少)」といった人口関連の統計だけがベースとなってしまうと、地域特性の全体像を見失う恐れがあることです。
利用者1人あたりのニーズ変化にも注意
介護現場や業界にとって、今後高齢者が減っていくという地域特性が見込まれる場合、「利用者確保が難しくなり、事業者間の競合が厳しくなる」という状況から、収益の維持が困難になるという問題があります。
一方で、地域の高齢者人口は減っても、利用者1人あたりのニーズ変化により、「顧客は減っても現場負担は増える」という可能性もあります。骨太の方針2024にもあるように、「85歳以上人口が増える中での介護・医療の複合的ニーズの増大(介護・医療連携の手間の増大)」も想定しなければなりません。
それだけでなく、もともとある地域特性が、人口変動でより顕在化するという可能性もあります。今のシーズンであれば、豪雪地帯で家の周囲の雪かきなどの必要性が高まります。ところが、担い手となるボランティアなどが確保しづらくなれば、当事者の家の出入りはもとより、訪問系サービスや通所系での送迎などが困難になることもあるでしょう。
また、いわゆる限界集落などで日用品や食料品などの出張販売の担い手が確保できなければ、生活環境や栄養状態の悪化リスクも高まります。それにより屋内事故が増えたり、低栄養による体調悪化ケースが頻発すれば、入院等によるサービス休止が増えて事業所の稼働率も低下する恐れも高まります。
1つの環境変化で現場に2乗・3乗の影響が
こうした環境変化によるニーズ変動は、環境変化が単発でも、サービス現場にとって2乗、3乗の影響が加速度的に現れがちです。
たとえば、利用者の低栄養リスクが高まれば、栄養改善に向けた現場の取組みを強化することが必須となり、その時点で現場の実務負担は増します。ここに高齢化にともなう悪化リスク速度の上昇が加われば、現場の努力もむなしく入院等が増加し、収益の減少という状況にも見舞われがちとなります。
つまり、「現場の負担増」によるコスト増と「入院等増加」による収益減が同時に進むことで、サービス資源の危機が2乗化されるわけです。2024年度改定で特別地域加算等の範囲の明確化が図られましたが、上記のような想定を超える状況を見すえないと、各種加算も経営を支えきれなくなるでしょう。
こうして見ると、現場の危機は二次関数的に増大していくことになります。保険者が市町村特別給付(いわゆる上乗せ・横出しサービスなど)を設定しても、将来的に想定外の給付増が見込まれれば、財源のあり方なども根本から考え直さなければなりません。
個別ニーズ変化というミクロ要素こそ重視
今回の新たな検討会では、もちろん2040年に向けた人口変動の推定・分析も必要です。しかし、それ以上に忘れてならないのは、個々の利用者の環境変動にともなうニーズ変化の掘り下げにも力を注ぐことでしょう。
過去の介護保険の見直しを振り返っても、前者のような「マクロ的視野」での対応を強化しても、後者の「ミクロ的視野」の分析が不十分ゆえ、想定外の危機への対応が後手に回りがちという傾向がたびたび認められます。
たとえば、地域によって高齢者人口と担い手人口の減少が同時にやってくる場合、恐らく対応策の1つとして出てくるのが「地域におけるサービスの集約化」でしょう。具体的には、複数の事業所の吸収・合併による大規模化や事業の協働化を図るというものです。
確かに、それも1つの方法ではあります。しかし、各利用者のニーズというミクロ的視野の状況が軽視されると、「(今までは見られなかった)新たなニーズが突然浮上する」といった“一種の化学変化”に対応できず混乱が増すということも生じかねません。そのあたりの精密な先読みができるデータを揃え、分析できるかどうか。このあたりが、新たな検討会の行方を左右することになりそうです。
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◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。