
2040年に向けての大きな課題が、介護ニーズ拡大と担い手減少の同時進行です。この課題に関し、国はさまざまな検討会を立ち上げ、介護保険のあり方や介護保険だけでまかなえない部分をどうカバーするかといった議論に力を注ぎ始めました。2027年度の改革を含めて、介護施策はどうなっていくのでしょうか。
厚労省と経産省の検討会。共通のテーマは?
2027年度の介護保険制度の見直しに向け、厚労省は「2040年に向けたサービス提供体制等のあり方」の検討会を、一方、経産省は「高齢者・介護関連サービス振興に関する戦略検討会」をそれぞれ立ち上げました。
共通するテーマは、冒頭で述べた「2040年に向けた介護ニーズ拡大と担い手減少の同時進行」にどう対処するかという点です。
厚労省側の検討会では、介護保険サービスそのものの「地域の実情」に応じた再編とともに、介護保険外の多様な機関との連携を通じながら、地域ぐるみでニーズに対応する体制づくりが視野に入っています。一方、経産省の検討会では、やはり介護保険外の多様な主体によるサービスの振興に焦点を当てつつ、介護保険で担い切れない部分をどのようなビジネスモデルで補うかが議論されています。
根底に共通して流れるのは、今の介護保険では、これからの高齢者の介護ニーズへの対応は難しいという問題意識です。そこには、今のまま介護保険だけで対応しようとすれば、保険料の高騰が続き、現役世代(40~64歳)の負担増も見過ごせなくなるという制度の持続性に関する問題も含まれています。
保険外の支援策、費用はどこまでまかなう?
注意したいのは、保険外のさまざまな機能で介護保険制度を補うという流れであっても、「その費用をどこでまかなうのか」という課題はやはり付きまとうことです。
経産省の検討会での課題提示を見ると、保険外サービスとなれば、やはり「利用者による全額自己負担」が原則となります。その負担を抑えるために、(1)他事業とのタイアップ(移動スーパー等のほか、既存の介護保険サービスも含む)、(2)有償ボランティア等を対象とした担い手のマネジメント、(3)先行投資の部分での公費による事業費補助(住民参画・官民連携事業など)などがあげられます。
もちろん、これによって地域の実情やニーズにマッチした「採算のとれるビジネスモデル」ができているかどうかの検証は必要です。
このあたりがきちんと精査されないと、上記(3)の公費による補助だけが膨らみ、いざビジネスとして成り立たなければ「撤退(あるいは行政との提携解消)」という事態も生じかねません。そうなれば、先行投資分の公費は無駄になってしまいます。
公費の有効活用をどのように進めるか
では、厚労省側の検討状況はどうでしょうか。検討会では、現在さまざまな地域の取組み例にかかるヒアリングが行われています。
既存資源の活用(設備や人員のシェアも含む)や、住民主体の多様な活動との連携により、「多様な困りごとの相談対応」、「中山間地域での効率的なサービス運用」、「集中的な介護予防の取組み」などを、地域ごとの創意工夫で展開している事例が示されています。
ただし、ここでも「事業費のねん出」をどうするかという課題が付きまといます。国のふるさとづくり応援の補助金や市町村の一般財源を中心とした支出、あるいは介護保険財源ではあるものの、地域支援事業費やインセンティブ交付金など「使えるもの」を精査しながら運営するという状況がうかがえます。
問題は、それでも今後を見すえての「さらなる財政支援」の必要性もうたわれている点です。国会の予算委員会などでは、十分に活用されていない基金等の「無駄」も指摘されています。このあたりは、公費の有効活用に向けて、地域ぐるみでいかに知恵を絞れるかが問われることになりそうです。
介護保険の行方も「保険外」に影響を受ける
いずれにしても、経産省および厚労省としては、公費によるさまざまな事業費の有効活用を目指しつつ、今後の予算措置のさらなる拡充を図る狙いが垣間見えます。
その賛否はともかく、大きな流れとして見た場合、介護保険などの社会保険の適用範囲を抑えつつ、「公費による予算措置」+「応能負担による利用者の拠出」という施策がトレンドとして浮かんできます。
となれば、今後の介護保険制度の見直しにおいても、「保険内外のサービスを同時提供する場合の人員・設備・運営基準の緩和」などが主軸になっていくのかもしれません。その場合に、「従事者の適切な働き方や処遇」をいかに確保するかという施策も重要になります。
また、経産省が示したデータによれば、ケアマネが保険外サービスを提案する際に「どのサービスや事業者が良質・安全か分かりにくい」という課題があり、いざという時の紹介責任が発生しかねないという状況が指摘されています。こうしたケアマネの「保険外サービス調整」にかかるガイドラインなども策定される可能性もあるでしょう。
介護保険成立前は、家族等の介護負担を減らす施策において「公費」が主な財源となっていました。制度から四半世紀が経過する今、再び「公費」が中心となる時代が来るのか。その時の介護保険はどうあるべきなのか。大きな流れとして見すえておくことが必要です。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。