
外国人介護人材の訪問介護等への従事について、現行の在留資格「介護」やEPA介護福祉士の取得者以外に、技能実習生や1号特定技能外国人も一定条件のもとで認めることとなりました。この従事拡大がどこまで浸透するのか、そこにある課題は何かを掘り下げます。
事業者が果たすべき5つの責務のハードル
今回の訪問介護等に従事できる対象者の拡大に際しては、技能実習生と1号特定技能外国人ともに、雇用する事業者に対する責務が示され、これについてのパブリックコメントも募集されました。技能実習生についてはすでに締め切りとなりましたが、1号特定技能については4月1日まで募集が続いています。
事業者側が果たすべき責務は5つ。詳細は3月17日の介護保険部会や同24日の介護給付費分科会での「外国人介護人材の訪問系サービスへの従事(報告)」をご覧ください。
一例を上げれば、「業務の基本事項等に関しての研修の実施」や「一定期間、責任者(サービス提供責任者を想定)等が同行することによるOJTの実施」などがあります。
介護給付費分科会などでは、「責務内容の具体性が乏しい」などの意見もあり、今後の詳細な規定も待たれるところです。いずれにしても、相応の期間の同行訪問によるOJT実施などが義務づけられた点で、サ責等に新たな実務負担が生じる可能性は高いでしょう。
加えて、先に述べた同行訪問でのOJTなどの期間が、想定以上に長くなる可能性もあります。となれば、どれだけの事業所が拡大された外国人介護人材を従事にあてることができるかについて、壁は決して低くありません。
日本での「滞在期間中」に得られるもの
たとえば、新たな従事者要件では、介護福祉士の取得にこだわらず、現行のホームヘルパーと同じく「介護職員初任者研修」を修了したうえで、介護事業所等における1年以上の実務経験があればOKとしています。
気になるのは、日本語能力がどれだけあるか、あるいは介護福祉士を取得しているか否かというより、「日本での滞在期間が今までより短い人」が従事する傾向が高まる点です。
在留資格「介護」等の場合、来日して実務経験ルートで介護福祉士を取得するとして3年以上、留学しての養成施設ルートなら短くなる可能性は高いですが、それでも日本での滞在期間は2~3年を要することになります。
その期間に、学業や実務の内外で、日本人の生活環境にふれる機会も多くなるでしょう。日本の家屋の特質や衣食住に支える環境なども、さまざまな機会(日本の友人の家に招かれる、実習で高齢者宅を訪問するなど)で目の当たりしたり体感できるかもしれません。
これに対し、今回のように従事者のすそ野が広がると、上記のような日本の生活環境にかかる感覚をつかみきれないまま従事せざるを得ない人も増えてくる可能性があります。
「サ責が駆け付けやすい環境」が不可欠?
施設・居住系であれば、相応のバリアフリーや室温・換気などの整備はほどこされています。一方で、在宅となれば、こうした環境は必ずしも整っていると限りません。そのつど環境を整えつつ、利用者の健康と安全を保つハードルはどうしても高くなりがちです。
そもそも、ここに訪問介護等の専門性が問われる部分があります。その点を軽視したまま、事前研修・指導などを行なってOJTに移行すると、「単独訪問」に至るまでに思いのほか時間がかかったり、慣れたと判断した直後に大きな事故等が生じる危険も高まります。
この点を考えると、同行訪問のコストが十分に保障されなければ、代わりに「いつでもサ責等がすぐに駆け付けられる」という環境が不可欠となっていくのは必然でしょう。
つまり、今回の従事者拡大の適用は、サ高住や住宅型有料等に併設した事業所(特にサ責を数多く雇用できる大規模法人)において、その併設建物に居住する利用者を対象とするといったケースなどに、どうしても限られてしまう──この見通しが強くなってきます。
外国人人材の「気づき力」を活かすために
結果として、今回の外国人介護人材の訪問介護等従事への適用拡大は、訪問介護事業所等の人員不足の対応策という観点では、国が期待するほどの効果は上がらないかもしれません。今回の施策を浸透させるとするなら、前提として「少なくとも1年以上」は同行訪問が続けられるようにするだけの介護報酬の設定や補助金などが必要になるでしょう。
もちろん、サ高住や住宅型有料併設以外での「サ責等の同行」にかかる移動コストも考えれば、非併設の事業所の基本報酬をただちに引き上げることも欠かせません。というより、本来はそれがあってこその「外国人介護人材の従事範囲の拡大」とも言えます。
将来的な日本人の労働力人口の減少を見すえれば、日本人人材の確保もさることながら、外国人人材の業務範囲を広げていくことは確かに必要です。それによって、たとえば利用者の在宅での居住環境に関して、日本人の視点では「慣れ」から見過しがちな課題に「気づける機会」が増えるかもしれません。
外国人人材のスキルが、日本の介護現場を一段高いレベルに引き上げる価値を生み出す可能性もある──その期待を、現状のコストにきちんと反映させることが問われます。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。