
3月24日の介護給付費分科会で、2024年度の介護従事者処遇状況等の調査結果が報告されました。同加算を取得している施設・事業所の職員は、2023年と2024年の各9月時点の比較で、基本給等がプラス4.6%に。この結果をどう見るかについて掘り下げます。
処遇改善加算再編後の賃金プラスの考え方
全産業平均では、2023年度と2024年度の賃金差を比較するとプラス4.6%の伸びとなっています。奇しくも今調査での介護職員の基本給等の伸び率と同等です。その点で、処遇改善加算の再編をめぐり、一応施策上の効果は上がっていると見ることもできます。
もっとも、介護給付費分科会の委員からは、状況がますます厳しくなっている旨の発言も相次ぎました。これらの発言の背景には、おおむね以下の3つの問題意識があります。
1つは、全専業平均との伸び率は同じでも、もともとある賃金差は埋まっていないこと。2つめは、今回の伸びが純粋に処遇改善加算の再編(および加算率の拡大)によるものなのかについて、さらなる分析が必要なこと。3つめは、2025年度から他産業の賃金がさらに上がる中、介護分野の賃金アップはそれに追いつくことができるのかという点です。
加算の全額を2024年度にあてた…が8割強
もともと国は、今回の新たな処遇改善加算について、2024年度にプラス2.5%、2025年度にプラス2.0%のベースアップへと確実につながることを狙いとしていました。
結果は、毎月決まって支払われる基本給等(月給・常勤の者)のアップは、2024年度の目標を大きく上回ったことになります。逆に言えば、現場感覚として「プラス2.5%ではまったく足りない」ことを物語ります。
背景として、他産業との賃金格差から「そもそも新たに人が集まらず、今いる職員も大量離職するリスクが高まっている」という状況があり、事業者としては「初年度から一気に上げざるを得ない」ことを表しています。
実際、国が「プラス2.0%」と目している2025年度に向けて、「加算額の一部を2025年度に繰り越した(あるいは、繰越す予定)」という回答は、サービス全体で14.3%にとどまります。人員不足が特に厳しい訪問介護に至っては、わずか12.0%に過ぎません。
一方で、「加算の全額を2024年度分の賃金改善にあてた(あるいは、あてる予定)」という回答は、全体で80.7%にものぼります。そうなると、この8割強は、2025年度のベースアップにどのように対応するのでしょうか。
当然ながら、より高い区分の算定が大前提ですが、もし加算Ⅰで「全額2024年度分のベアにあててしまった」となれば、非常に厳しい状況と言えます。このあたりについての追加的なデータも求められるところです。
今後「事業所の持ち出し」が急増する懸念も
仮に「2025年度にベースアップ等のできる余地がない」という事業者が一定以上出現するとすれば、現行の加算率を超えて「事業所による持ち出し」というケースが急増する懸念があります。冒頭の3つの視点のうち2番目に関連して、「すでにそうしたケースが一定数ある」とするならば、2025年度に「ベースアップ負担による倒産・撤退」という危機的状況がさらに高まりかねません。
これを防ぐとなれば、業界団体などが主張している「賃金・物価スライドによる期中改定」がますます現実味を帯びることになります。もしくは、野党が提出している「介護・障害福祉従事者の人材確保に関する特別措置法案」を早急に可決・成立させ、一時金ではない継続的な補助金支給も視野に入るでしょう。これを実現するには、現在審議中の予算案の修正等も求められることになります。
いずれにしても、春闘を経ての他産業のさらなるベースアップは目前に迫っています。「2027年度を見すえて」といった余裕はまったくない実情に関し、国がどれだけ危機感を持っているかが問われています。
「一時金もない」居宅ケアマネはより深刻
言うまでもなく、「2027年度まで待っていられない」という状況は、処遇改善加算の対象となっていない居宅ケアマネの場合にさらに深刻です。補正予算による介護人材確保・職場環境改善等事業も居宅ケアマネは対象外となり、一時金の恩恵も受けられません。
多くの企業では、4月からの従業員のベースアップを受けて、さまざまな商品・サービスのさらなる価格上昇を図らねばなりません。昨年の状況を見ると、その影響が消費者物価におよぶのは夏場にかけてとなりそうです。
そうなると、たとえ一時金でも「ある」と「ない」では、従事者の生活の厳しさをしのぐうえで大きな差が生じるでしょう。たとえば、4月から夏場にかけてケアマネの大量離職も起きかねません。医療法人のバックボーン等が乏しい福祉用具の従事者等も同様です。
そうなると、居宅のケアマネジメントや居宅介護上の基本的な環境設定も滞る可能性も浮かびます。上記の推測から「夏場に居宅介護が危機に陥る」となれば、その時期に健悪化が生じがちな利用者も多い中では、医療費の増大にもストレートにかかわりかねません。
その点を考えれば、早期の期中改定には、処遇改善加算の対象サービス拡大も含むことが必須です。この「時間との勝負」は、この1か月あまりが分かれ目となりそうです。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。