介護従事者を公務員化する流れに? 介護キャリアの議論にも大きく影響

2024年度改定の効果検証等における自治体調査によれば、介護サービス事業所の休廃止数が改定後に軒並み増加しています。注目されるのは訪問介護ですが、それにも増して居宅介護支援の休廃止も目立ちます。地域によっては、資源不足をカバーするべく、自治体が直接関与する必要性も叫ばれています。

公務員ヘルパーの拡充を求める意見が浮上

4月14日の介護給付費分科会では、認知症の人と家族の会に所属する委員から、以下のような意見が上がりました。

今回の効果検証で明らかになった訪問介護のヘルパー不足に関してですが、特に人員不足が深刻化する中山間地域において「税金(公費)を使った公務員ヘルパーのしくみを検討してほしい」というものです。介護保険前の措置制度の時代に、公務員ヘルパーがいることで「安定的なサービス提供が行われていた」という状況を振り返っての意見です。

サービス提供が厳しくなっている地域において、公費による公務員ヘルパーを派遣する──介護保険の枠組みそのものの見直しにもかかる可能性があるという点では、大胆な提案かもしれません、しかし、少し視野を広げてみると、介護にかかわる人材の公務員化が現実の課題となる状況も見受けられます。

ちなみに、この課題は訪問介護のヘルパーにとどまらない範囲に広がりつつあり、ここまで開催されているさまざまな検討会でも、従事者の公務員化を想起させる方向性などがたびたび取り沙汰されています。

2040年に向けた検討会でも公務員化の種が

たとえば、2040年に向けたサービス提供体制等のあり方検討会の中間取りまとめでは、以下の内容が見られます。「地域においてサービス主体を担う事業者が少ない場合は、市町村自らが行なう直接的な事業として実施する枠組みの検討も、一つの方向性の検討としてあると考えられる」というものです。

また、「現行の介護予防・日常生活支援総合事業(以下、総合事業)においても、生活支援のサービスを市町村自らが実施することが可能であり、この点の拡張が考えられる」とも示されています。総合事業は地域支援事業の一環ですが、この範囲を特例的に拡大する考え方も検討課題になっているわけです。

仮に、こうした市町村事業の範囲を「介護給付サービスを補う」という方向性のもとに拡大するとなれば、その財源をどうするか、担当人員をどのように確保するかといった点も議論の対象となります。人件費等を介護報酬によってまかなうとなれば、そのための報酬の枠組みも整理しなければなりません。

常勤雇用による安定就労実現などの課題も

ところで、総務省のデータによれば、2020年時点で、市町村等の職員のうち「福祉関係職」は約31万人にのぼります。ただし、その多くは生活保護のケースワーカーや公設保育所の保育士など。直接介護に従事するホームヘルパーとなると、都道府県まで含めた総職員数は約230人にとどまっています。

こうした状況を見ると、減少しつつある地域のサービス資源(特に減少の著しい訪問介護など)を補うには、少なくとも市町村内に目的にかなう部門・部署を設け、計画的な人員確保のしくみが求められます。運営の安定性を図るうえで、非常勤ではなく常勤採用を基本とし、国の責任による新たな交付金などを創設する必要性を浮かんでくるでしょう。

「措置制度時代に逆戻りする」という声もあるかもしれません。しかし、現状の人員不足や従事者の高齢化、さらにはサービス資源そのものの休廃止・撤退という流れが強まる中では、少なくとも「地域の利用者を受け入れる余裕がない」という不安を解消するためのセーフティネットが必要なのは明らかです。

たとえば、介護報酬の財源構成を変える方向性が厳しい場合、「公務員によるサービスを公費でまかなう」という形で、間接的に公費を拡大する考え方も浮上する可能性があります。施策のかじ取りが限られることで、従事者の公務員化案は浮かびやすくなるわけです。

ケアマネの負担軽減でも公務員の存在がカギ

もう1つ、市町村による介護サービスへの関与の拡大が必要となってくる背景があります。それは、ケアマネジメントにかかる諸課題検討で浮上している課題との関係です。

その重要課題の1つにケアマネの業務負担軽減がかかげられていますが、焦点となるのが法定以外の業務の取扱いです。

この解決に向けて、検討会の中間取りまとめでは、「地域課題として対応を協議すべき」としたうえで「市町村が主体となって関係者を集めて協議し、利用者への切れ目のない支援ができる地域づくり」を求めています。

これを制度上で具体化するには、地域支援事業の枠内などで、新たな協議体などを立ち上げる必要も出てくるでしょう。その中核を、市町村が配置する既存のコーディネーターが担うという考え方もあるかもしれません。

一方で、ケアマネが担ってきた業務範囲の大きさを考えれば、直接支援の人員を含めて公務員福祉職の拡充も課題となりそうです。

このように、地域の介護ニーズを担ううえでの公務員関与が強まる気配が生じつつあります。それが吉と出るか凶と出るかは別として、介護従事者のキャリアに「公務員勤務」が大きく入り込む可能性も高まりそうです。

 

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。