
財務省の財政制度審議会・財政制度分科会が、今後の財政方針の取りまとめに向け、社会保障等を含めた方向性を示しました。この時期に示される建議は、2027年度の介護保険制度の見直しに、どのような影響を与えるのでしょうか。実現可能性も含めて掘り下げます。
この時期の財務省側の建議が持つ意味とは?
財政制度分科会の取りまとめ(建議)のタイミングは、1年を通じて前期・後期に分けられます。後期はおおむね11月に示され、次年度予算の編成を大きく左右します。
一方、今回は前期にあたり、5月中には取りまとめが行われることになります。こちらは、政府が毎回6月頃に閣議決定する「経済財政運営と改革の基本方針(いわゆる「骨太の方針」)2025」の土台となります。
そのうえで、8月末が締め切り(予定)となる、各省庁による2026年度予算の概算要求の基準が示されます。つまり、この前期の建議は、「骨太の方針」⇒「概算要求基準」⇒「概算要求」へとつながることになります。
注意すべきは、上記の流れの間に、2027年度の介護保険制度見直しに向けた社会保障審議会・介護保険部会の議論が続いていることです。あくまで今回の財務省側の建議は2026年度予算の編成につながるわけですが、同時に政府の「骨太の方針」の土台ともなるわけで、その点では2027年度に向けた介護保険部会の議論にも影響を与える点に注意が必要です(介護保険部会では、財務省側の建議が参考資料として示されることもあります)。
まず注目したいのは「負担と給付の関係」
こうした状況を頭に入れたうえで、今回の財政制度分科会の示す改革の方向性の中から、特に介護保険部会、あるいは来年の介護給付費分科会の議論に影響を与えると思われる内容を取り上げてみましょう。
まずは、介護保険財政を左右する「負担と給付」の関係です。財政制度分科会が示す、今後の主な改革の方向性は以下の4つです。
A.2割負担者の範囲の見直し…3割の判断基準の見直しも含まれている点に注意が必要。
B.金融資産、金融所得の勘案…補足給付にかかる預貯金勘案以外(保険料や自己負担割合など)への勘案を議論すべきとしている。
C.ケアマネジメントへの利用者負担の導入…ケアマネジメントの質の評価や報酬への反映の手法も、同時に検討すべきとしている。
D.多床室の室料負担のさらなる見直し…前回改定(2025年8月施行)での老健・介護医療院の一部の多床室に室料負担が発生するが、この範囲をさらに拡大するというもの。
特に強調されているのがB.とD.で、今後の介護保険部会や介護給付費分科会でも重要論点となるでしょう。ケアマネにとって気になるのはC.ですが、この時点ではまだ財務省側のトーンは上がっていません。ただし、ケアマネジメントへの質の評価というステップが示されている点で、報酬体系から見直し、順次改革を進める流れが想定されます。
処遇改善や事業者支援には変わり映えなし?
もう1つ気になる「給付の内容」ですが、従事者の処遇改善や訪問介護をはじめとする事業者支援については、おおむね以下のような方向性が中心となっています。
それは、現行の処遇改善加算や地域医療介護総合確保基金の支援メニュー、2024年度補正予算による各種支援策など、既存施策の活用・浸透をまず進めるという考え方です。そのうえで、従事者の賃上げ状況や地域のサービス状況についての「適切な実態把握」を行なうことを重要性しています。
これらの基本的な考え方を土台としたうえでの方向性としては、職場環境の整備、生産性向上の推進、経営の協働化・大規模化、特養等の人員配置基準のさらなる弾力化──などが示されています。現場としては、これまでの厚労省の改革案と「変わり映えしない」というのが正直なところかもしれません。
財務省側の改革意向が特に強い論点は3つ
その他、軽度者(要介護1・2)の訪問・通所介護の地域支援事業への移行、保険外サービスの活用促進に向けた柔軟運用、人材紹介会社の規制強化、有料老人ホームの紹介手数料の適正化などがうたわれています。
このうち、軽度者の訪問・通所介護については、過去の制度見直しのたびに論点化されていますが、審議会等での反対意見も根強く実現に至っていません。ただし、今回は厚労省の「2040年に向けたサービス提供体制のあり方検討会」などで、地域状況に応じたサービス提供体制の柔軟化・弾力化の論点が示されています。財務省側の資料を見ても、こうした議論を追い風として、今回は実現させたいという意図も垣間見ることができます。
こうして見ると、賛否が大きく分かれる論点のうち、財務省側の改革意向が特に目立つとして、⑴2割・3割負担者の拡大、⑵多床室の室料負担見直しの拡大、⑶軽度者の訪問・通所介護の地域支援事業への移行(生活援助からの段階移行)の3つがあげられます。
ちなみに、ケアマネジメントへの利用者負担導入については、ややトーンダウンが見られる一方、先に述べた「ケアマネジメントの質の評価と報酬への反映」という前段の改革から推進する流れとなる可能性があります。
これらの点を頭に入れたうえで、夏頃に向けて加速する介護保険部会の議論や政府の「骨太の方針」に着目してみましょう。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。