
2027年度の制度見直しに向け、現時点で主要テーマに上がりそうなのが、運営・人員基準のさらなる柔軟化やサービス提供の弾力化です。厚労省の審議会だけでなく、内閣府の規制改革推進会議でも論点に。これからの議論展開で注意すべきポイントを整理します。
規制改革推進会議で自治体から切実提案も
サービスの柔軟化や弾力化が検討される背景には「将来的な労働力人口の減少」があり、実際、人口減少の著しい地域では、すでに受給バランスが大きく崩れ始めています。厚労省は「2040年に向けたサービス提供体制のあり方」を検討していますが、「今起きつつある課題」という視点もそこには含まれています。
地域ごとの深刻な実態は、内閣府で現在開催されている規制改革推進会議でも明らかにされています。4月28日に開催されたワーキンググループでは、離島や中山間地域に位置する3つの自治体からのヒアリングが行われ、冒頭で述べた柔軟化や弾力化に向けたさまざまな提案も上がりました。
たとえば、オンラインによる専門職の兼務やサービス間での専門職のシェアを可能とすること。また、入所系施設のサテライト化の基準緩和、テクノロジー活用による人員配置基準のさらなる緩和の求めも見られます。
ケアマネ関連でも、離島等のケアマネ確保が著しく困難な地域において、簡易なケアプランの導入やケアプラン作成可能な専門職の拡大、入退院支援についてケアマネと切り離した別事業の立ち上げなどの提案もあります。
地域限定の改革でもスタンダード化は必至
これらはあくまで、地域ごとの事情に配慮した対応案です。ただし、昨今は中山間地域等にかかる加算の適用範囲を広げる動きもあろ、「どの地域に適用するのか」という線引きには難しさがともないます。
いったん適用する地域条件が確定しても、対象を外れた自治体から「適用拡大」を求める声が上がることも。そうなれば、柔軟化・弾力化を「適用しない地域」の方が例外的となってゆく可能性もあるでしょう。
ちなみに、将来的な労働力減少という長期トレンド以前に、介護現場の従事者不足は緊急の課題でもあり、それは短期間で急拡大しています。つまり、地域限定での柔軟化・弾力化の流れがいったんできると、それが全国規模のスタンダードなしくみへと変化するまでに時間はかからないことが予想されます。
介護従事者不足が深刻な地域では、「応急処置」的に柔軟化・弾力化を位置づける自治体もあるでしょう。ただし、その後に「労働力人口の減少」という長期トレンドに入れば、一時的な措置とはいきません。次期改定で基準等がさらに緩和されたとして、そこからの後戻りは考えにくいことになります。
柔軟化・弾力化で精査すべき2つの課題
ここで、考え方を整理しておく必要があります。地域の資源不足(受給のミスマッチ)を防ぐうえで、基準適用の柔軟化やサービス提供の弾力化は不可欠である──まずは、この提案をスタートラインと位置づけます。
次に、それによって、現場のサービス提供にどのような影響がおよぶのか。この予測される課題を精査しなければなりません。たとえば、A.現場従事者の負担状況、B.利用者の状態およぶ影響の有無・大きさです。
A.については、仮に予想される負担増が大きい場合、かえって離職等を誘発させることにつながらないかという懸念が付きまといます。この懸念が現実化すれば、従事者が減った分を「さらなる柔軟化・弾力化で補う」というスパイラルにもつながりかねません。
また、A.との関連で、B.の利用者への悪影響(健康状態や認知症BPSDの悪化、現場での事故の多発など)も懸念材料となります。これが十分に防止できないと、利用者の入院等による「介護サービスからの離脱」が加速し、サービスの稼働率が下がります。
稼動率低下は、そのまま事業所の収益悪化につながるだけでなく、新規の利用者獲得に向けたコスト増の要因となります。いずれにしても、経営悪化リスクをともない、やはり事業所減のスパイラルを呼びかねません。
各種生産性向上策は本当に課題を解決するか
もちろん、これらの予測される課題に対しては、各種テクノロジーの導入推進や利用者の安全保持に向けた委員会等の取組み徹底など、さまざまな施策の抱き合わせが図られることになるでしょう。問題は、その「抱き合わせ」の施策が、本当に上記A.、B.の課題を解決するのかという点です。
先にA.、B.の課題の精査が必要と述べました。これについては、改定後の効果検証などが行われるでしょう。問題は、「テクノロジー導入」などの生産性向上の取組みを行なったことで、本当にA.、B.が解決されたのかという調査にきちんと踏み込めるかです。
というのは、テクノロジー導入のコストはもちろん、その機能を活かすための体制づくりや研修の手間、委員会等の開催による従事者のルーチンの負担増などが精査されないと、A.、B.の課題がそこでも付きまとうからです。
過去の基準緩和等の効果検証においても、一部で従事者の業務時間が増えたというデータも認められます。解決の一手が、現場の悪化を加速させることはないか。従事者不足や事業所減少が大問題となっている今だからこそ、より慎重な対応は不可欠でしょう。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。