介護保険外サービスの活用や振興が、次期制度改正に向けても大きなテーマとなる中、保険外サービスの事業者団体「介護関連サービス事業協会(CSBA)」が、生活支援サービスと配食サービスのガイドラインを策定しました。その意義と課題を取り上げます。
保険外サービスの利用促進に向けた流れ
介護保険外サービスについては、2024年の「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」で、「保険外サービスの利用促進に向けた環境整備」を目指す旨が明記されました。
これを受けて、経産省が介護需要の増大にともなう新たな受け皿と位置づけ、その振興に関する戦略検討を進めています。財務省も、財政制度等審議会が示した介護保険制度改革の改革案で、増大する介護需要に対して保険外サービス活用による対応を求めました。
一方、厚労省は「2040年に向けたサービス提供体制のあり方」を検討しています。今後の制度改革に向け、地域の実情に応じた支援体制に保険外サービスをどのように絡めるかが論点の1つとなるのは間違いありません。
介護保険制度の枠内でいえば、財務省側が提案している保険内外でのサービス組み合わせの柔軟化をどう図るかがポイントとなります。内閣府の規制改革推進会議でも、このあたりの規制緩和などを改革工程に位置づける動きが出てくる可能性があるでしょう。
仮に「介護保険事業者も保険外サービスに参入しやすい」という環境が整備されれば、市場は一気に拡大することになりそうです。
ガイドラインが求める介護保険法令の遵守
ただし、市場が拡大し参入のすそ野が広がれば、劣悪な事業者も増える懸念も常に付きまといます。保険内外サービスの組み合わせに関しては、介護保険関連の法令が歯止めとなるでしょうが、保険外サービス自体の質を確実に担保する点では不安も残ります。
そこで必要となるのが、業界主導による市場の健全化の取組みです。今回、CSBAが策定したガイドラインも、この市場健全化を図るための一歩と言えます。
注目したいのは、各ガイドラインの最後に関係法令の遵守をうたっていることです。民間の契約サービスですから、民法や特定商取引に関する法律、および消費者契約法などが含まれているのは当然として、介護保険法とその関連規則も含まれています。
上記との関連では、本編にBCP関連の対策や事故発生時の対応、衛生管理、身体拘束および虐待防止の対策などを講じることを求めています。いずれも介護保険省令に準じたものであることは言うまでもありません。
「認証」後のチェック体制をどうするか
CSBAとしては、こうしたガイドラインにもとづいて各事業者の審査・評価を行ない、一定の基準を満たしていれば認証(100年人生サポート認証)を付与するとしています。利用者としては、契約したい事業者がこの認証を取っているか否かによって、良質な事業者選択が一定程度担保されることになります。
ただし、これはあくまで民間団体のガイドライン、および認証に過ぎません。これが活かされるためには、利用者となる人々を含めて、社会的な啓発を行なうことが必要です。このあたりは、経産省や消費者庁のバックアップによって進められることになるでしょう。
問題は、こうした認証のしくみやガイドラインがあったとしても、認証後にサービスの質がどこまで担保されるのかという点です。
ガイドライン内では、遵守状況をCSBAが定期的に把握し、必要に応じて改善指導を行ない、場合によっては事業者名の公表や認証の利用禁止も検討するとしています。とはいえ、介護保険にもとづく自治体監査などがないゆえに、このあたりのしくみも官民連携で拡充することが課題となりそうです。
多機関連携の規定をガイドラインで明確に
もちろん、事業者団体や官民連携による監査機能などが追いつかなくても、質を担保する手段はあります。それは、専門職などによる「第三者の視点」が確保されることです。
仮に保険外サービスをケアプランに位置づけた場合、サ担会議に担当者が参加したり、サービス提供の状況をケアマネと共有する機会が生じるでしょう。介護保険を使っていない場合でも、包括経由でサービスを紹介された場合、包括等に定期的に情報提供を行なう取り決めなどがあれば、そこでも第三者によるチェック機能を働かせることは可能です。
もっともその場合でも、事業者側に、主体的な「多機関連携」の意識を培うことが必要です。たとえば、ガイドラインの中に「包括や担当ケアマネ、かかりつけの医療機関、利用中の介護保険サービス事業者との連携」にかかる規定を設け、認証に向けては、その遵守を求める項を加えてはどうでしょうか。
CSBAの重要施策の中には、「関連団体等との連携」は記されています。しかし、残念ながらガイドライン内には、「連携」にかかる明確な規定はありません、介護保険法令の遵守において、間接的に担保されているだけです。
保険外サービスが介護保険を補完する流れが強まるとすれば、やはりガイドライン内でもケアマネや介護サービス機関との連携規定の明確化は急務です。次期改定で保険外サービスとの関係性が重要課題となるなら、それに合わせたガイドラインの改定も待たれます。
【関連リンク】
介護保険外サービスのガイドライン公表 事業者団体 認証制度を7月にも開始へ - ケアマネタイムス

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。