
次期制度の見直しを含め、将来的な介護施策のキーワードに浮上しているのが、保険外サービスです。また、資源不足に直面している地域等での行政主導サービスのあり方も議論されています。これらは、既存の保険サービスにどのような影響を与えるでしょうか。
介護保険内外に見られるさまざまな動き
5月28日に、経産省の「高齢者・介護関連サービス産業振興に関する戦略検討会」が取りまとめを公表しました。これに先がけて、今年3月には保険外サービス事業者による「介護関連サービス事業協会(CSBA)」が発足。運営上のガイドラインも示しています。
こうした保険外サービスをめぐる活発な動きを受け、財務省審議会の建議でも「保険外サービスの活用」を主要な改革案の1つとして上げています。6月に閣議決定が予定される「経済財政運営と改革の基本方針(いわゆる骨太の方針)」でも、保険外サービスのあり方が示される可能性がありそうです。
一方、厚労省の審議会・検討会では、中山間・減少地域(サービス主体を担う事業者が少ない地域)における「市町村自らが行なう直接的な事業」の枠組みが検討されています。こちらは保険サービスの一翼を担うという位置づけですが、保険からの財源拠出のあり方によっては、現状の介護保険枠とは異なるフレームとして定められるかもしれません。
「介護保険サービス+α」による再構築
いずれにしても、「介護保険サービス+α」を前提としつつ、介護施策の再構築を図るといううねりが強まっています。
もちろん、保険外サービスや行政主導のサービス(一般財源によるもの)については、これまでも多様なものが地域で展開されています。ただし、あくまで保険サービスとは並立の位置づけであり、結果的に相互が補完し合う形になっているとしても、両者を積極的につなげる仕掛けは整っていませんでした。
あえて「仕掛け」に該当するといえば、ケアプランで保険外のインフォーマルサービスも位置づけることが示されていることくらいでしょうか。たとえば保険内外のサービスの柔軟な組み合わせなどは、むしろローカルルールによる強い規制も見られるのが現状です。
今生じつつある動きは、こうした従来的な枠組みから一歩踏み込み、保険内外の補完関係を強めるという方向性と言えます。
介護保険制度による「後押し」も論点に?
経産省の取りまとめでは、保険外サービス事業者と高齢者福祉関係者(行政および保険サービス事業者など)の「歩み寄り」の必要性を求めています。その「つなぎ」として、生活支援コーディネーターなどを位置づけていますが、介護保険制度からの「後押し」も今後は論点に浮上する可能性は高いでしょう。
すでに財務省側の建議では、保険内外サービスの柔軟な組み合わせを認めることや、保険外サービスの活用促進に向けた介護報酬におけるインセンティブ付けを求めています。
また、もう1つのテーマである行政主導のサービスについても、厚労省内で報酬体系などのあり方が検討されています。そもそも、従来と同様の財源構成とするのか、一定程度は公費による自治体への交付金等でまかなうのかという論点も浮上するかもしれません。
こうした現状の議論をベースに、今後考えられる制度の行方を予測してみましょう。
介護報酬面での「仕掛け」は難しい可能性が
もっとも気になるのは、保険外サービスの活用推進に向けた介護報酬面の「仕掛け」でしょう。ただし、介護報酬はあくまで保険財政を使っているわけですから、保険外サービスの活用を介護報酬で評価するというのは、実際には困難かと思われます。
ありうるとすれば、ケアマネが利用者から法定外業務にかかる相談を受けた際、具体的な支援・手配を加算等で評価するといった具合でしょうか。もっとも、これも保険外サービスの販促を保険財政で支援する形になり、保険者等からの異論も強くなりそうです。
もう1つ考えられるのは、自治体の生活支援コーディネーター等が主催する「ケアマネの法定外業務の受け皿整備(保険外サービスへのつなぎも行なう)」の協議体などができるとして、そこに参画していることを特定事業所加算の要件に組み込むといった具合です。
行政主導サービスについては、保険者の責任のもと、人員基準等を独自に緩和したうえで保険外サービス事業者への委託を進めやすくするなどが考えられます。もっとも、これも「保険財政を保険外事業者への委託に使うことの是非」という点で議論になりそうです。
保険内外の組み合わせの柔軟化が落とし所?
となると、実現性が高いのは保険内外サービスの柔軟な組み合わせに向けた基準緩和です。現状も一定条件下での組み合わせは可能ですが、規制改革推進会議などの提言も受ければ、さらなる緩和策が打ち出されそうです。
現状でローカルルールなどもある中では、こうした緩和策も含めて「保険内外サービスの組み合わせの明確化」を改めて図る動きも出てくるでしょう。先に述べた報酬上のインセンティブが難しいとなれば、その分、緩和策も思い切ったものになる可能性があります。
問題は、介護報酬自体が上がらないとなれば、事業者の中に、(組み合わせる)保険外サービスを「押し売りする」ような動きが生じる懸念も付きまとうことです。こうした状況を防ぐ制度設計が不十分だと、「介護保険を使っているのにお金がないと満足なサービスが利用できない」という状況を生みかねません。このあたりは慎重な議論が求められます。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。