いよいよ20日投開票の参議院選挙。 現場従事者による370万票の行方

7月20日が投開票日となる参議院選挙が近づいてきました。急速な物価上昇による国民生活の疲弊が大きな課題ですが、崩壊の瀬戸際にあえぐ介護現場への支援策がどうなっていくかも、社会全体で関心が高まっています。今回は、貴重な一票のあり方を考えます。

介護従事者370万票の力がもたらすもの

今選挙の有権者数は、約1億100万人。対して、介護や障害福祉の現場で働く有権者は、大雑把な計算ですが、介護職員数が約320万人、ケアマネおよび(介護現場で働く)看護職がともに約18万人、その他の従事者数まで含めると計約370万人となります。

全有権者数との割合で見れば、4%弱という数字です。ただし、前回(2022年)の参議院選挙の東京都選挙区の結果を見ると、当落選者の票差は約3万5000票となっています。

選挙区の今定数は75、東京選挙区は7人(いずれも東京選挙区の非改選欠員分含む)なので、7/75となります。これに、先の介護等従事者の有権者数370万人を掛けると約33万人。東京を例に出した場合、従事者数の偏りはあるものの、当落選上の候補者が十分に逆転できる数字です。なお、その下の落選者と最下位当選者の票差は約20万票と広がりますが、それでも十分に逆転が可能です。

もちろん、前回と今回を比較した「上積み」票は単純計算より少ないでしょう。ただし、先の約3万5000票の差を見れば、現場従事者の投票行動いかんで、当選者の顔ぶれに影響を与える可能性は高いと言えます。加えて比例代表の定数50を考慮すれば、介護施策を変える力は十分にあるでしょう。

各党の公約で注目したい「時期」と「規模」

ただし、現場従事者にとって、現状では具体的な投票行動に戸惑いがあるかもしれません。というのは、与野党ともに掲げている公約を見る限り、多かれ少なかれ「介護現場の処遇改善の必要性」は認めつつ、「従事者の賃金引上げ」に言及しているからです。

となると、次に気になるのは、その「時期」と「引上げの規模」です。この2点について、まずは、与党の公約を見てみましょう。

「時期」については、与党・自由民主党(以下、自民党)は「次期報酬改定はもとより、経済対策等を通じ」としています。同じく与党・公明党も「処遇改善を行なうための報酬改定の実施」をかかげていいます。ただし、「具体的な時期」や「前倒しの期中改定はあるのか」ははっきりしません。

次に「引上げの規模」ですが、自民党は「物価高や他産業の賃金に負けない」、公明党は「物価・賃金の高騰に十分対応できる」という表現をそれぞれ用いています。ともに「物価・賃金高騰」を基準としているわけです。

野党側公約の「時期」と「規模」はどうか?

一方、野党はどうでしょうか。

最大野党の立憲民主党は、「規模」については「全産業平均へ」としています。「時期」ですが、「主な政策集」で「次期改定を待たずに令和6(2026)年度の障害福祉サービス等報酬改定」を実施する(実際は「見直す」という表現)としています。ただし、この「等」の中に介護が含まれるかどうかは不明確です。

日本維新の会は、「待遇・職場環境改善」をうたってはいるものの、その「時期」や「規模」については記されていません。

国民民主党の処遇改善関連の公約は、上記2党に比べると具体的です。「時期」は「10年」とややスパンは長いものの、「規模」は「地域の実情を勘案しつつ給料を2倍」としています。なお、「処遇改善加算」については、現在対象とされていない従事者も対象とし、対象者への「直接給付」もかかげています。

介護保険の財源割合見直しをかかげる党も

日本共産党は、「規模」については立民党と同じく「全産業平均並み」ですが、「時期」は明確ではありません。ただし、国庫負担割合を「35%に引き上げ」るという財源確保案を併記しているのが注目点です。

れいわ新選組は、「規模」について「介護・保育従事者の月給を10万円アップ」としていますが、こちらも「時期」は明確ではありません。他の注目点としては、「民間事業者が少ない地域」での「介護士の公務員化」や、介護保険の国庫負担率を共産党以上となる「50%以上に引き上げ」という点です。

この他、社民党は「臨時の報酬改定」の実施で介護報酬を引き上げ、従事者の処遇改善を図るとしています。参政党や日本保守党は、介護従事者の処遇改善にはふれていません。

もう1つ見すえたいのが「選挙後」の動向

介護現場としては、他業種への人材流出が生じかねない点で、時期は「今すぐにでも」、規模としては「他産業平均までの賃金引上げ」が当面の意向でしょう。それにしっかりフィットする公約は、一部を除き多くありません。

そこで見すえたいのが、選挙後の動きです。

与党が参議院の過半数を確保した場合、骨太の方針で示唆された報酬改定の前倒しとそれにともなう補正予算編成への期待は高まるでしょう。しかし、規模的に野党側が示す「全産業平均まで(国民民主党の10年で2倍を含む)」に至るかどうかは不透明です

一方、野党は一部で期中改定は示唆しているものの、衆参ともに多数を占めた場合の「今すぐ」が実現できるかが問われます。カギは、すでに一部野党の共同で提出している処遇改善等法案の行方です。この審議が始まれば、野党の賛成多数で成立する可能性は大です。可決成立すれば、複数野党がかかげる「全産業平均」への向けた予算編成なども、この新法に拘束されることになります。

このように、今回の選挙後の動きも、投票行動では見すえておきたいポイントです。

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◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。