
「2040年に向けたサービス提供体制等のあり方検討会」の取りまとめや、業界団体からの提案などで急浮上しているのが、訪問・通所介護の複合型サービスの創設です。2024年度改定時の議論では見送りとなった論点ですが、実際の展開には課題も付きまといます。
訪問・通所の新複合型、期待は大きいが…
中山間地域等を中心に、居宅サービス資源の減少が深刻化しているのは周知の通りです。その背景には、地域の介護ニーズに対する圧倒的な従事者不足があり、特に全利用者の3割を占める訪問介護は壊滅的な状況です。
2024年度改定時の議論でも同様の構造が指摘されていて、それが複合型サービス創設案の浮上につながっていました。たとえば、当時出されていた日本ホームヘルパー協会からは、「通所介護の中で訪問介護(のケア)ができれば、人員を確保できる」としています。
ただし、基本構造が同じとはいえ、今の状況はその時と一段も二段も深刻化のレベルが異なります。仮に既存サービスを土台として新サービスの創設を図る場合、そこには体制上の再構築が必要です。その環境変化に、今のマンパワー不足の現場が耐えられるのかという懸念は常に付きまといます。
すでに、訪問介護と通所介護を同一法人内で展開してきたという先駆ケースなら、サービス提供体制上のマネジメント等についてノウハウが蓄積されているでしょう。そこに人材配置の柔軟化などが加わることで、収益構造を好転できる可能性があるかもしれません。
しかし、そうした一部法人によるサービス提供の機能が幾分か上乗せされるだけで、地域の資源不足を補えるかといえば、見通しは決して明るくありません。「それでも、やらないよりはまし」となるのでしょうか。
先駆的取組みにおける新・複合型のメリット
訪問・通所介護の新・複合型サービスが、仮に誕生した場合を想定してみましょう。
先の「マネジメントがすでに確立している」ケースでは、法人で一括採用した人材に、OJT等の時点で法人内の訪問介護や通所介護など多様な現場を経験してもらい、双方のケアの視点を養うなどの取組みが見られます。
そうした法人内では、ICT等を活用した情報連携の様式も統一されているケースも多いでしょう。それを土台とした場合、その時々の利用者状況に応じて、訪問と通所のサービスを柔軟に切り替える際にも、情報共有の円滑化は図りやすいことになります。
たとえば、通所が急きょ訪問に切り替えとなった場合でも、その日の利用者の状態などの情報共有が迅速に行われれば、その後のサービス提供のあり方も(医療につなげるなどといった緊急時も含めて)適切に進行する期待は大きいでしょう。恐らく、こうした状況も、今後は新・複合型サービスのメリットとして上がってくると思われます。
マネジメント部門の人材移動が加速する⁉
気になるのは、こうした先駆的なメリットが地域で展開された場合、限られた人材がそこに集約されないかということです。
たとえば、先に述べたように、利用者の状況に応じた柔軟なサービス提供を展開するというプラスαの機能が付されるとして、そこには(土台があるとはいえ)既存のマネジメントにブラッシュアップが必要です。
そうなると、地域の訪問・通所介護で管理業務に携わってきた人材(訪問介護のサ責や通所介護の主任相談員など)を新たに獲得するといった動きが出てくるかもしれません。
従事者不足に悩む地域の訪問・通所介護では、「限られた人員をいかにニーズに適合させるか」に、中間管理を担う人材が常にストレスを抱えています。仮に転職後の給与額はそれほど変わらないとしても、「今のストレスから解放されるなら…」という動機のもとで人材移動が加速する可能性もあるでしょう。
そうなれば、新・複合型の体制構築のしわ寄せが(特に中小の)事業所運営におよび、結果として資源の撤退が加速しかねません。
苦慮する自治体の拙速な「飛びつき」に懸念
それは、あくまで現在の「生産性向上の流れ」にもとづく「淘汰」であり、新・複合型がその分のニーズ対応を(閉鎖した事業所の利用者受入れも含めて)広げれば問題ない──という考えもあるかもしれません。
しかし、それで本当に地域のニーズ対応力がフラットとなるのかといえば、管轄市町村によるち密なシミュレーションが不可欠となるでしょう。また、なじみの事業者から離れざるをえない利用者が増えた場合、当事者に対する自立支援や重度化防止の機能は維持されるのかについて、行政と包括による継続的なモニタリングも求められます。
既存の事業者の継続を図るなら、訪問介護を運営する法人と通所介護を運営する法人の協働・合併を推進する──というやり方も、もちろんあるでしょう。ただし、先に述べた同一法人内でのマネジメントのような共通土台が乏しければ、拙速に効果を求めるほど、従事者にかかる負担は増えかねません。
地域の介護資源の弱体化に苦慮する自治体としては、新・複合型サービスが創設された場合のメリットに飛びつきたくなるのは理解できます。しかし、それは「長年地域を担ってきた資源をいかに再興するか」という徹底した議論のうえで、初めて成り立つものです。新・複合型は、決して「即効性ある魔法の杖ではない」という認識が求められます。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。