
介護報酬上でLIFE対応加算が誕生してから、4年以上が経過しました。次期定期改定では、訪問系サービスにも適用される可能性もあります。気になるのは、LIFEを導入し対応加算を算定している事業者・施設が、現場のケアの質向上へ真に活かせているのかどうかです。
12月からのLIFE研修にうかがえる“焦り”
厚労省は、今年12月から介護施設・事業所の職員および自治体職員を対象に、2025年度の「科学的介護情報システム(LIFE)研修会」を随時開催する旨の周知に乗り出しました。
2024年度改定で一部LIFE対応加算の要件や情報様式が見直され、LIFE情報も対象となる介護情報基盤の稼働が近づいていることが背景の1つといえます。一方で、「活用の質」に直結させるための焦りもうかがえます。
LIFE導入によって対応加算が取得できれば、確かに事業所・施設の収益を一定程度上げることはできます。しかし、それだけが「目的化」してしまうと、システム・メンテナンス等にも多大な予算投入が必要となる中、「費用対(自立支援・重度化防止の推進という)効果」が課題として浮上しがちです。会計検査院などからの指摘も想定されるでしょう。
もちろん、フィードバックを受けて、利用者の経時的変化などが「見える化」されれば、それだけでも現場のケアに対する意識を変える土台にはなりえます。しかし、それが現場の業務風土を変え、利用者にとって真の満足度向上につなげて行けるのでしょうか。
特定の職員だけが評価者となった場合の課題
たとえば、科学的介護推進体制加算では、提供が必須である項目の1つに10項目の「ADL」データがあります。これについて、毎回決まった担当者が評価を手がけるケースもあるでしょう。しかし、それだと他職員にはフィードバック情報を「実際のケアの場面」と結びつける実感が乏しくなりがちです。
確かに、各利用者の経時データで何らかの変化が認められた場合、「その時点で利用者に何があったのか」を掘り下げることで、改善に向けたヒントに気づきやすくなります。ただし、その「何があったのか」を掘り下げるには、評価時点での利用者の言動やその前後での生活の様子(栄養摂取の状況など)を、職員1人1人がたどる思考過程が必要です。
人間の思考というのは、実際の体験を通じてこそ活発になるものです。その体験に「意識すべきポイント」への集中力が伴っているかどうかで、さらに思考が活性化されていきます。つまり、評価データの収集というミッションを通じ、「意識すべきポイント」への集中力を高める機会が作られるわけです。
ミッション遂行の担当が限定されると、上記の機会が現場の中で広がっていきません。多くの職員にとって、どこかで「自分ごと」に向けたスイッチが入りにくくなりがちです。
全職員が評価者となる機会を設けられるか
この状況の改善には、やはりすべての職員を対象に、一度はLIFEデータ収集のための評価者の任に就いてもらうことが必要です。
できれば、同じ利用者に対して同じ職員が評価者となるのが理想です。もっとも、重要なのは「一度は評価を体験した」という実感を、すべての職員が持てるかどうかです。これがあれば、そのつど評価者が変わったとしても、現場の意識は変わってくるでしょう。
問題は、評価者が変わる場合、人によって評価をめぐるバイアスにも変化が生じることです。先の「ADL」データは3および4段階の評価にとどまりますが、それでも担当者の声のかけ方やボディタッチのあり方によって評価が変動することもあります。見える化が難しい、職員と利用者の相性といった要素が影響を与えることもあるかもしれません。
「それでは、客観的な経時データは得にくいのでは」と思う人もいるでしょう。しかし、その時に何があったのか(どんなケアが行われたかなど)という記録があれば、それもまたケアのヒントを導く材料となるはずです。
「そこまでの余裕はない」を解消できるか
もっと言えば、この流れをシステムとして構築することで、「LIFEをケアの質の向上に結びつける」ための近道につながります。
ちなみに、科学的介護推進体制加算では、任意のデータ提供項目に「ICFステージング」があります。その様式を見ると、「ADL」の一部項目とリンクしています。「ICFステージング」では、利用者の「している・しようとしている動作」への着眼をより強めた評価が求められます。つまり、(任意項目ではありますが)この評価に向けた事前研修を行なうことで職員1人1人の意識を変え、「ADL」評価のバラつきを抑えるとともに、ケアの質の底上げにつなげることが可能になるわけです。
もちろん、「今の人手不足下で、そこまでの余裕はない。評価者は特定せざるを得ないし、データ提出は必須項目で手一杯」という声もあるでしょう。そうなると、上記のような話は「基本報酬や処遇改善加算が引き上げられてから」となるのも仕方ないかもしれません。
しかし、ここまで多額の予算をかけたLIFEを「実のあるケア向上」に生かし切れるかどうかは、未来の介護を左右すると言っても大げさではありません。一方で、国としても本気で「LIFEを生かし切る」のなら、先に述べた基本報酬等の整備が大前提という意識を持ちつつ、その施策方針を今後の研修等でも随時明らかにすることが求められるでしょう。
【関連リンク】
【解説】厚労省通知vol.1412について(LIFE研修会の開催について) - ケアマネタイムス

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。