「介護保険」を国の重点価値に据える。2026年、介護現場を守る術はここから──

2026年は、6月に介護従事者の処遇改善に焦点を当てた期中改定が行われる他、介護保険制度等の大幅な見直しに向けた法改正も進められる予定です。ここに、さまざまな社会状況も加わる中、業界や現場従事者として見すえなければならないテーマについて考えます。

介護報酬の期中改定2.03%で足りるのか?

厚労省と財務省の折衝により、2026年6月の介護報酬期中改定の改定率は2.03%となることが決定しました。あくまで第一歩に過ぎないとしても、深刻な現場危機を見すえた規模としては物足りなさが残ります。

過去の報酬改定で、もっとも伸び率が高かったのは、リーマンショックを受けて景気対策が図られた時の「プラス3%」です。現状の急速な物価上昇とそれにともなう他産業との賃金格差を考えれば、当時よりも介護現場の苦境は強まっていると考えていいでしょう。

もちろん、事業コストをまかなうだけの地域医療介護総合確保基金や重点支援地方交付金等による、「保険財政外の支援」の上乗せもなされる期待はあります。しかし、他産業との月8万円の賃金格差を埋めるべく、事業者側の「持ち出し」が依然として膨らむなら、介護事業経営の厳しさは予断を許しません。

円安⇒物価上昇⇒賃金格差拡大が続く中で…

加えて注意したいのが、年明けに向けて懸念される「物価上昇」のさらなる加速です。総務省の消費者物価指数によれば、今年11月時点での物価上昇は、対前年同月比でプラス2.9%。2年前との比較では5%にのぼります。生鮮食料品の上昇はさらにこれを上回ります。

物価上昇の大きな要因といえば、食材や資源の多くを輸入に頼る中での急速な円安です。今年10月前後から再び円安が加速し、その動きは止まりません。このまま円安が進めば、2026年の春(4月頃)にかけてもう一段の物価上昇も十分予想されます。前年同月比で再び2%を超える可能性もあるでしょう。

そうなれば、2026年春闘での賃上げ率は(業界によって息切れ感はあるものの)、2025年度の5.25%(過去最高)に迫ることになりそうです。介護報酬がプラス2.09%強の改定率にとどまるとすれば、アップ分を集中的に従事者の処遇改善にあてたとしても、再び他産業との賃金差は開いてしまいます。

こうなると、先に医労連が求めた「10%以上の引上げ」レベルの手立てを尽くさない限り、「円安⇒物価上昇⇒賃金格差の拡大」の流れに追いつくことは難しいかもしれません。

2割負担の範囲拡大も政府は諦めモード?

もっとも、このまま物価上昇・賃金格差拡大との競争が激しさを増し、介護報酬が上がり続けた場合、被保険者の保険料負担もさらに増すことになります。現役世代の保険料負担等の緩和を目指す視点からすれば、2割負担者の範囲拡大など利用者の負担増を推進する考えは根強いでしょう。しかし、物価上昇のスピードがここまで速いと、「とても踏み込めない」というのが実情かもしれません。

ちなみに、年末の介護保険部会では、2割負担者の拡大についての結論を持ち越しました。厚労省としても、すでに「この物価状況では、所得基準の引下げは不可能」と踏みつつ、時期を伺っている可能性もあります。

確かに、現行2割負担の所得ラインである「(単身世帯で)280万円」は、この物価上昇下では「困窮世帯」へと簡単に転じてしまうことは明らかです。と言って、現役世代を含めた保険料の上昇は政権のアキレス腱になりかねません。そうなると、2026年中には「介護保険財政における公費負担割合の引上げ」の議論が大きく浮上しそうです。

「過去最大」が続く予算で公費拡大すると…

ただし、公費負担を引き上げるとなれば、すでに補正予算・本年度予算ともに「過去最大」という規模において、さらに上積みがなされる流れとなります。当然、今以上に国債への依存度も高まり、国の財政悪化懸念から円が売られ、さらに円安が加速しかねません。

つまり、他省庁が管轄する予算項目も含めて「満遍なく予算額を引き上げること」は、さらなる物価上昇リスクを招き、その対策としてさらに予算規模が膨らむという悪循環に陥る恐れをはらんでいるわけです。

懸念されるのは、ある時点で「物価高騰」はそのままに、国民のセーフティネットにかかわる給付のカットや自己負担増を一気に進める流れを政府が打ち出すことです。これは最悪のシナリオとなります。

介護を中心とした社会保障こそ国の価値に

介護保険は、介護の必要な当事者にとって命と生活を守る重要なセーフティネットです。しかし、価値はそれだけではありません。

その価値とは──高齢者の自立支援・尊厳保持が保障されることで、多世代の将来不安の解消につながること。そして、それを支援する現場の知見・技術が進化すれば、「これから高齢化が進む世界の国々」を集め、国際的に我が国の評価を高める財産になることです。

この点に着目すれば、介護を中心とした社会保障のあり方をもう一度国の根幹に据えた予算編成も必要でしょう。この「命を守る価値」への予算の集中化により、財政規律を維持しつつ、介護現場への支援を強化できれば、物価上昇を抑えつつ「国民の幸福度」を高める礎を築くことになるのではないでしょうか。

2026年は、介護現場が「自分たちの価値」を見直し、「新たな価値」も創造するスタートラインとしたいものです。それこそが、わが国が直面する負のスパイラルを逆転させる力となる──これを信じることが必要です。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。