介護保険は地域デザインが問われる時代に。 「豊かな自治体人材」育成の手立てが必要

間もなく介護保険法等の改正案が示されます。テーマの1つが、介護サービス資源の「地域格差」にいかに対応するかという点です。カギとなるのは、都道府県や市町村のかかわり方ですが、果たして地域ニーズに追いつくだけの取組みは期待できるのでしょうか。

次の介護保険法改正で問われることは?

介護保険部会の取りまとめでは、特例介護サービスの拡充や一部サービスへの包括報酬の導入、さらには地域の実情に応じて、給付サービスを地域支援事業で担うしくみなどが提案されています。いずれも、市町村が作成する介護保険事業計画(あるいは都道府県が作成する事業支援計画)にもとづく、各自治体のビジョンと体制のあり方が問われます。

すでに、離島地域や人口の過疎化が急速に進む地域では、現行制度の枠組みや各種補助金・交付金等を活用しつつ、官民連携によるさまざまな取組みを展開しています。こうした事例をベースとしつつ、全国レベルでの横展開を見すえた環境を整える──これが、次期法改正の軸に据えられることになります。

ただし、当事者となる各自治体に主体的なビジョンを描き能動性を発揮するだけの力量がないと、国が定める制度上のしくみを確かな効果に結びつけるのは困難です。国が行なうことをただ「待つ」だけでなく、各自治体で自律的に「今からできること」のビジョンを立て、その取組みを見すえた体制整備に力を注いでおかなければなりません。

自治体の「人づくり」に向けた2つの課題

もちろん、こうしたビジョンの構築も体制整備も口で言うほど簡単ではありません。ビジョン構築のために地域課題を収集し分析するにも、実践に向けた体制を整備するうえでも、そこは「人」が支え手となっています。

官民連携での取組みを進めるうえでも、両者の「つなぎ役」となる人が不可欠です。民側の人材が有効な働きを果たすこともあるでしょうが、地域課題を的確に解決できるだけのビジョンを達成するには、やはり行政による「つなぎ役」の存在はどうしても必要です。

ここで2つの課題が持ち上がります。1つは、人口減少などに直面する自治体ほど、中核的人材となれる職員の確保・育成が難しいこと。2つめは、人が確保できても、その人々が課題分析や「つなぎ役」の機能を十分に果たしえる人件費等の確保をめぐり、地方自治体は財政上の厳しさに直面しやすいことです。

業務過多でも人が増えないままの自治体現状

第1の課題でいえば、自治体の職員数そのものが減っている現状は無視できません。

これは、少子化による労働人口減少以前からの傾向です。たとえば2005年から2010年にかけて総務省が行なった集中改革プランにより、自治体職員数が約23万人減少し、その影響が現在まで及んでいます。コロナ禍の2020~2021年に危機対処のための職員確保が進み、その後に職員の定年引上げも行われましたが、2025年の職員数は集中改革プランの期限である2010年よりも少ないままです。

一方で、国のさまざまな改革(マイナンバー制度など)により窓口業務等は煩雑化しています。各種デジタル改革による業務効率化が図られていますが、それ自体、過渡期にはかえって業務負担が増える傾向もあります。そのあたりは、介護現場の生産性向上の取組みとも共通する点と言えるでしょう。

そうなると、地域の課題分析や官民連携に向けた「つなぎ」活動など、中長期的ビジョンに沿って地道な取組みが必要な職務は、どうしても後回しとなりがちです。第2の課題である必要な財源確保に向けた予算編成なども、首長が明確なビジョンをもって議会と根強く交渉するなどの力量がないと、必要な体制確保はおぼつかないことになります。

フットワークに優れた自治体人材は育つのか

最近では、地域課題に対する包括的な支援体制の確保があらゆる自治体で重要課題となり、そのためにケアマネや保健師等の資格を持つ専門職採用なども増えています。

しかし、任期が制限されやすいなど雇用の不安定さが問題となりがちです。このあたりも、「その時々の国の施策」に合わせるだけという、短期ビジョンのみの人材確保が影を落としていると言えるかもしれません。

そうなると、中長期的ビジョンに沿った地域課題の把握(地域をめぐって住民や関係者の声に耳を傾けるといった、地に足をつけた取組み)や、普段からの民間機関への「つなぎ」に向けた働きかけなどを根気よく続けることは、どうしても難しくなりがちです。

ちなみに、国が推進する介護事業所の協働化・大規模化について、民間での取組み状況を「把握していない」という市町村は、協働化で75.7%、大規模化で63.1%にものぼります。このあたりも、地域の実情に着目するだけの余裕のなさが浮き彫りとなっています。

恐らく、これからの介護保険をはじめとする地域支援のあり方は、各自治体がいかに実情に沿ってデザインできるかが強く問われるものになるのは間違いありません。

国としても、自治体が余力をもって「フットワークにすぐれた人」を育てられることに着目し、そのための支援にまず力を注いでおかなければなりません。制度の枠だけを整えても、その土台作りが軽視されていては、介護保険の建て直しはままなりません。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。