診療報酬改定に見る「対ケアマネ連携」。 ケアマネ側の業務風土はどう変わるか?

診療報酬改定の具体的項目の答申が行われました。介護報酬との同時改定ということもあり、対介護連携にかかる改定項目も目立ちます。以前、居宅ケアマネが把握しておきたい「診療報酬側の事情」について述べましたが、具体的にケアマネ実務にどのような影響を与えるのかについて、さらに掘り下げます。

地域包括診療料算定で対ケアマネ連携を重視

すでに注目しているケアマネも多いと思いますが、かかりつけ医機能の評価報酬である「地域包括診療料(認知症地域包括診療料含む)」の算定要件で、ケアマネおよび障害福祉の相談支援専門員(以下、ケアマネ等)との連携を重視した規定が加えられました。

具体的には、(1)ケアマネ等からの相談に適切に対応すること、(2)(1)の旨を院内の見やすい場所に掲示することです。

さらに、算定に際しての施設基準では、その医療機関に以下のいずれを満たすことが求められます。A.担当医がサ担会議に参加した実績があること、B.担当医が地域ケア会議に参加した実績があること、C.院内でのケアマネとの対面あるいはICTを用いた相談の機会を設けていること(なお、対面が望ましいという但し書きもあります)。

もっとも、これだけでかかりつけ医のケアマネ対応が向上したり、サ担会議への参加率が上がるかといえば、懐疑的な人もいるでしょう。サ担会議の出席などは選択項目になっているので、「地域ケア会議に参加している」という実績があれば、実質的にサ担会議の参加はなく、依然として「意見照会」というレベルで終わるのでは…と考えがちです。

地域医療でのケアマネの位置づけが変わる?

しかし、重要なのは、診療報酬上でこうした規定が設けられたこと自体にあります。国は地域包括ケアシステム構築の一環として、かかりつけ医機能の強化を図ろうとしています。その評価の軸となる地域包括診療料で、ケアマネへの相談対応やその機会を設けること(ケアマネタイムなどが想定される)、サ担会議への参加などが明記されたことは、自治体の地域医療計画にも影響を与えるでしょう。

また、今回の診療報酬改定では医療DXが大きなテーマであり、ICTによる多職種連携を評価する項目も増えています。あらゆる医療機関でのICT活用による地域連携のすそ野が広がれば、「ケアマネとの情報共有」の土台も整うことになります。こうした環境変化が加われば、先の地域包括診療料の要件や施設基準の改定が意味を持ってくるわけです。

こうした診療側の環境変化(それにともなう医療機関側の意識変化)をさらに進めそうなのが、「在宅医療情報連携加算」です。これは、訪問診療を行なっている医療機関がケアマネ等からの情報を得て、それをもとに医学的管理を行なった場合を評価したものです。

在宅医療情報連携加算─ケアマネの対応は?

この新加算のポイントは、ケアマネなどの多職種との情報連携をやはりICT活用で行なうことです。しかも、ICTによる訪問診療側の情報確認が常時可能となる体制を、連携側との間で平時から構築する必要があります。

ケアマネ側にしてみると、医療機関側に提供する情報の様式や具体的なICTによる提供方法を、診療側とのやり取りの中で確認しなければなりません。また、診療側がどのような情報を求めているのかという点についても、すり合わせが必要となるでしょう。

考えてみれば、ケアマネとしては、ケアプランプラン作成のために医療機関側から情報を得ることはあっても、医学的管理のために医療機関側に情報提供する機会はまだ多くはありません。その点では、ケアマネの業務風土を変えるきっかけになる可能性もあります。

ここで思い浮かぶのが、「適切なケアマネジメント手法」を反映した新年度からの法定研修カリキュラムや課題分析標準項目の改定が行なわれたことです。たとえば、新カリキュラム内の(特に「疾患別ケア」にかかる)修得事項や課題分析標準項目の具体的項目などが、「診療側がどのような情報を求めているか」のヒントになってくると思われます。

2027年度のケアマネ側改定にも大きく影響

ただし問題があります。この在宅医療情報連携加算は、訪問診療を行なう医療機関で「通院できない患者」を対象としていることです。ケアマネにしてみると、「通院できる利用者」であれば、通院時情報連携加算が1つのインセンティブとなりますが、「訪問診療を受ける利用者」の場合はそれがありません。

以前、当ニュース解説で、「通院時情報連携加算」の対象範囲が(歯科医院まで)広がったという話を受け、「訪問診療も含めるべきではないか」と述べました。いみじくも今回、診療報酬側に「訪問診療にかかる情報連携加算」が誕生したわけですが、結果的にケアマネ側のインセンティブのしくみは整わないままとなりました。このあたりについて、2027年度改定では、ケアマネ側に新たな情報連携のための加算などが誕生すると思われます。

その他、今回の診療報酬では、薬剤師による薬剤情報等の提供先としてケアマネも対象に含まれました(服薬情報等提供料の見直し)。ケアマネ側にも、薬剤師との情報連携を評価するしくみが今後増えてくるかもしれません。これも注意したい点の1つです。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。