ターミナルケアマネジメント加算の改定。 ケアマネは何を問われているのか?

2024年度改定の解釈基準等が示されました。過去の改定以上の複雑さともに、明確な解釈基準がなかなか出ないといった状況もあり、現場の混乱を招きやすくなっています。その一例として、ケアマネ関連の改定からターミナルケアマネジメント加算を取り上げます。

特定事業所医療介護連携加算との関係は?

ターミナルケアマネジメント加算の改定ポイントは2つ。1つは、対象となるターミナル期の利用者について「末期がんの患者に限る」という規定が外されたこと。もう1つは、「終末期の医療やケアの方針に関する利用者・家族の意向把握」が明記されたことです。

さらに、同加算の算定回数が要件となっている特定事業所医療介護連携加算ですが、その要件も見直されました。具体的には、ターミナルケアマネジメント加算の算定回数について、前々年度の3月から前年度の2月までの間の算定回数が、「5回以上」⇒「15回以上」と3倍に引き上げられたことです。

このハードルアップは、ターミナルケアマネジメント加算の算定が「末期がん以外の利用者」でも可能になったことによるものです。

問題は、要件となる算定期間が「前々年度の3月から前年度の2月まで」となっていることで、2024年度の算定対象は「2023年3月から2024年2月」となる点です。今改定前の実績が問われてしまうと、「算定できる予定だったのに不可能となった」というケースが数多く生じることになります。

要件変更後に浮上する「難しい課題」

こうした懸念が現場から上がったことを受け、厚労省は「経過措置」を打ち出しました。改めて確認しましょう。1つは、改定後のターミナルケアマネジメント加算がまったく反映されない2025年3月末までの期間。もう1つは、「反映の有無」が混在する2025年4月から2026年3月末までの期間です。

前者については、特定事業所医療介護連携加算の「改定前」の要件(ターミナルケアマネジメント加算の算定「5件」)が適用されます。一方、後者については、以下のような計算法を用いるとしています。

「(前々年3月となる)2024年3月での(改定前の)ターミナルケアマネジメント加算の算定件数×3」+「(前々年4月から前年2月となる)2024年4月から2025年2月までの(改定後の)ターミナルケアマネジメント加算の算定件数」……という具合です。

この告示を受けて、「ほっとした」というケアマネも多いでしょう。ただし、ターミナルケアマネジメント加算の算定要件が反映されてくる2025年4月以降では、難しい課題も浮上します。それは、末期がん以外になると、医師によって「終末期である」と判断するのが難しいケースが増える可能性です。

心不全、老衰──終末期判断が難しくなる?

2022年の「65歳以上の死因割合」を見ると、「悪性新生物(がん)」が23.0%とトップですが、次に多い「心不全」も14.7%、「老衰」も12.1%あり、両者を足すと「がん」を上回ります。全日本病院協会が2016年に示している「終末期医療に関するガイドライン」によれば、「終末期の判断」は「複数の医師」による判断されるとしています。「末期がん」であれば、複数の医師でも判断は一致しやすいかもしれませんが、「心不全」や「老衰」では判断が分かれる可能性も出てくるでしょう。

たとえば、「心不全」の場合、その予後は「末期がん」と比較して判断が難しいとされます。「老衰」に至っては、医学的な定義づけそのものが難しく、厚労省のガイドラインでも「高齢者で他に記載すべき死亡の原因がない、いわゆる自然死の場合」としています。当然、終末期の判断も医師によって分かれがちです。

そうなると、時として患者本人や家族の意向が医師の判断を左右することも起こりえます。実際、先のガイドライン中の「終末期の定義」でも、「複数の医師による判断」のほかに、「患者・家族・医師・看護師等の関係者が死を予測し対応を考えること」とされています。本人・家族の意志決定が、「終末期の判断」に大きくかかわる可能性が高いわけです。

改めて問われる、利用者の意思決定の支援

そうした患者・家族の意志決定を位置づけたのが、今回のターミナルケアマネジメント加算のもう1つの改定点(終末期の医療やケアの方針に関する利用者・家族の意向把握)と見ることもできます。医師による「終末期の判断」とは前後しますが、そもそも早期からのアドバンス・ケア・プラニング(ACP)の延長と考えれば、その過程で医師の判断に影響を与えることもあるでしょう。

いずれにしてもケアマネとしては、どのようなケースであれ、利用者の「人生の最終段階における意思決定」の支援を常に遂行することの先に、ターミナルケアマネジメントがあるという意識づけが必要になりそうです。
その意思決定支援を「医師をはじめとする多職種」と協働で進める過程において、医師による「終末期の判断」も浮上してくるという考え方が自然なのかもしれません。

特定事業所医療介護連携加算の算定なども、新たなターミナルケアマネジメント加算の実績に振り回されるのではなく、普段からのACPにもとづくケアマネジメントのあり方が問われていると受け止めるべきでしょう。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。