介護情報基盤をどう活用するか? 現場としての主体性が問われる時代へ

システム構築が進む介護情報基盤ですが、市町村による情報基盤連携の対応の遅れにより、全国的な運用は2028年度からとなりました。現場としては「まだ先」ですが、どのように向き合うことが求められるでしょうか?

介護情報基盤を軽視できない2つの理由

2028年度といえば、当初予定されている2027年度改定の後となります(なお、2026年度に、物価高騰や他産業との賃金格差対策をにらんだ臨時改定が行われる可能性あり)。

居宅介護支援含む介護保険事業所・施設としては、当面の改定動向を見すえつつ運営基準や加算要件への対応に集中することになるでしょう。それ以前に、「目前の人手不足や運営コストの上昇への対応に手一杯」が実情かもしれません。事業所によっては、「介護情報基盤は大切かもしれないが、考えている余裕はない」という本音も聞こえてきそうです。

とはいえ、実際に介護情報基盤が全国稼動すれば、日々の業務のあり方も変わってきます。「活用しなくても、特段の影響はない」と考える事業所もあるでしょうが、稼働が間近になれば、「対応せざるをえない」という状況も、以下の2つの理由から想定されます。

1つは、事業所ごとの対応スピードにより、現場の業務効率化の進ちょく度がさらに開き、経営状況の二極化が加速することが予想されること。もう1つは、国による介護情報基盤浸透に向けた制度設計が進む可能性です。

利便性は要介護認定情報等入手だけではない

前者について、居宅介護支援での活用を想定します。ケアマネ業務にかかる効率化といえば、要介護認定情報等の入手がWebサービス上で可能となり、ケアプラン作成の迅速化が可能になることなどが強調されています。確かに、大きなメリットの1つでしょう。

ここで、もう一歩踏み込んでみます。ポイントは、保険者からの要介護認定情報だけでなく、サービス提供事業所からのLIFE情報が介護情報基盤に含まれてくることです。

LIFE情報では、利用者のADL・IADLだけでなく、口腔・栄養や認知機能の状況も含まれます。情報更新は3か月に1回なので、ケアマネ側のモニタリング頻度には劣りますが、そのモニタリング情報を補完できる余地はあります。ちなみに、現行では訪問系サービスは含まれませんが、次期改定でLIFE対応の対象が広がることも想定されます。

保険者は要介護認定情報、サービス提供側からはLIFE情報、そしてケアマネ自身によるアセスメント情報やモニタリング情報(サービス提供事業所との連携シート情報含む)──これらが、ケアプランの作成や見直しに際し、重要な情報として蓄積されていきます。

介護情報基盤情報にAIが絡んでくると…

これらの蓄積情報をケアマネ実務に反映させる場合、これまで各ケアマネの知見にもとづいて情報の統合・分析が行われてきました。しかし、情報の範囲が広くなると、ケアマネの思考だけに頼るのは大きな労力を伴います。また、ケアマネごとの判断力や知見によって差が生じやすくなることもあるでしょう。

ここで頭に入れたいのが、AIの存在です。蓄積された一次情報をAIが統合・分析し、利用者の課題分析を図るとします。ケアマネとしては、ケアプラン作成に向けた基本的な思考(抜け落ちがないかどうかの確認も含む)を整えることができます。ケアプラン作成の土台部分の労力が効率化され、上積み部分でケアマネの専門性が発揮しやすくなります。

このケアマネジメントにかかるAI活用が、介護情報基盤の稼働によって強く後押しされるとします。そうなれば、それまでのケアプラン作成支援AIの活用有無以上に、事業所ごとのケアマネの業務支援体制に格差が生じることになるでしょう。そうなれば、「(AIキャリア志向も強い新世代の)ケアマネに選ばれる事業所」の格差も広がりかねません。

新インフラに翻弄されるだけで終わるか否か

国としても、ケアマネの業務改革の一環として「AIによるケアプラン作成支援の推進」をかかげています(ケアマネジメントにかかる諸課題検討会の中間整理より)。その具体策として浮上すると考えられるのが、先の2つめの理由で述べた報酬・基準上におけるインセンティブが図られることです。

入口は、介護テクノロジー導入支援事業のケアプラン作成支援AIにかかる支援強化となるでしょう。しかし、ケアプラン作成支援AIに、介護保険法上で位置づけられた介護情報基盤がかかわるとなれば、一時的な予算措置にとどまらなくなる可能性もあります。

たとえば、介護情報基盤の活用を基準上で推奨(あるいは努力義務化)したうえで、ケアプラン作成支援AIの活用を(新設が予想される)処遇改善加算の要件にするといった具合です。さらに、ケアマネジメント上のAI活用を要件とした、ケアマネ版の生産性向上推進体制加算なども考えられます。

こうした未来を見すえた時、介護情報基盤の活用について、各事業所が今から主体的な創意工夫を練ることが重要です。

介護情報基盤は膨大な予算をつぎ込み、その活用促進を介護保険財源による地域支援事業でも位置づけています。受け身の姿勢では、高コストの新インフラに翻弄されるだけになりかねません。それより、「どうしたら現場が使いやすくなるか」を考え、国から主導権を奪い取る──そんな気概も求められそうです。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。