LIFE活用、当事者参加を忘れるな

社会保障審議会・介護給付費分科会で、2021年度介護報酬改定の効果検証等にかかる調査方法の議論が進んでいます。改めて注目したいのが、「LIFEを活用した取組み状況」について。調査票の内容等をもとに、これからの科学的介護に必要なビジョンを整理します。

利用者不在のLIFEになっていないか注意

分科会で示されたアンケート調査票では、LIFEの活用状況や導入時の課題、PDCAサイクルを展開するうえでの課題などを問う項目が並んでいます。LIFEが円滑に運営され、現場に浸透していくかどうかを推し量るうえでは、確かに必要な調査でしょう。

しかし、LIFEをめぐる運用がうまく進んでいるかどうかは、あくまで科学的介護の「過程」に過ぎません。科学的介護の重要な目標は、それによって利用者の自立支援・重度化防止が進むのかどうかにあります。

もう少し視野を広げてみましょう。考え方によっては、自立支援・重度化防止も「一つの過程」にとどまります。介護保険法の目的に照らすのであれば、その先にある到達点は、要介護者が尊厳を保持し、その有する能力に応じて日常生活を営むことにあります。

この点を頭に入れれば、必要なのは「利用者自身が科学的介護についての情報を手にし、主体的に参加する」ことではないでしょうか。利用者不在のLIFE活用になっていないかを、掘り下げることが必要になるわけです。

データを利用者にフィードバックしてる?

この点を頭に入れながら、分科会で提示された調査票の質問項目を見てみましょう。

注目したいのは、「すでにLIFEを活用している事業所」ではなく、「LIFE未登録事業所」を対象とした調査票内です。その中に、「これまでの利用者への介護状態のフィードバック状況」を尋ねた項目があります。

たとえば、データ分析した結果や利用者の介護状態の推移等について、利用者・家族にフィードバックしたことがあるか。「ある」とすればその頻度はどれくらいか。フィードバックの内容は何か──という具合です。

あくまで「LIFE未登録事業所」が対象なので、ここで言う「データ分析」はLIFE活用前の事業所独自のものとなります。それでも、利用者・家族に「今の状態(ADL・IADLや栄養、口腔機能等)の変化」などについて、事業所なりに分析した結果を示すことは、科学的介護にかかる当事者の主体的な参加を保持するうえで重要なカギとなるでしょう。

現実の突きつけには確かに配慮も必要だが…

ところが、「LIFE登録済事業所」を対象とした調査票では、上記に該当する質問項目がありません。LIFEの活用状況を尋ねる選択肢の中に、「フィードバック票を用いた利用者・家族への説明」という項目はあります。しかし、この点について独立した質問項目を設けて掘り下げる流れとなっていません。

もちろん、全体を通して自由記載で書き込む項目がいくつかあるので、そのあたりに反映される可能性はあります。しかし、独立した質問項目がないということは、LIFE運営において、利用者・家族の「知る権利」や「主体的に参加する権利」についての審議会の問題意識の薄さが垣間見えます。

確かに、利用者の状態等にかかるデータのフィードバックにはデリケートな問題も付きまといます。たとえば、自身の状態についてデータによる「現実」を突きつけられれば、利用者や家族には「つらい」こともあるでしょう。自身の状態等についての受容が不十分だと、強い意欲低下にも結び付きかねません。

しかし、だからと言って「利用者・家族との情報共有は二の次」という前提でLIFEが運営されてしまえば、データ解析がより複雑かつ高度化するほど、当事者が主体的にどうかかわっていくかというテーマが置き去りにされてしまいます。科学的介護の推進が、介護保険の主人公である利用者の参加の道を閉ざすことになりかねないわけです。

利用者配慮はケアマネの役割だけではない

となれば、科学的介護がスタートしたばかりの現時点で、「利用者・家族がLIFEにどうかかわっていくか」というあり方をしっかり固めることは重要テーマとなるはずです。

たとえば、調査票内で「利用者へのフィードバック状況」にかかる質問項目の比重を増やすことが望まれるでしょう。また、LIFE活用にともなう「事業所・施設内での議論」や「多職種連携等の取組み」について、利用者・家族への情報開示やコミュニケーションのあり方を問う項目を設けることも求められます。

ちなみに、ケアマネを対象とした調査内では、「フィードバック票を利用者に提供」した場合のモニタリングへの影響を尋ねています。その中には、利用者の満足度や要望の変化などが選択肢として上がっています。

最終的に、ケアマネ経由で利用者への情報提供や説明のあり方への配慮が期待される…となるのかもしれません。しかし、実際にLIFE活用するサービス提供側が「利用者の主体的な参加」にかかる倫理観を高めなくては、ケアマネの役割も十分に発揮されません。

今後、現場でLIFEを活用していくという中で、「利用者不在にならないためにはどうしたらよいか」という点を意識し、多職種間でもしっかり話し合うこと。これが、科学的介護の推進に際して不可欠なテーマであることを、すべての従事者が意識したいものです。

 

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。