コロナ禍の余波、これからが注意

コロナ禍の余波、これからが注意

新型コロナウイルス感染症の陽性者数・重症者数は大きく減少しましたが、介護現場はまだ強い緊張感に包まれています。長期化したコロナ禍が、法人経営にも少なからぬダメージを与える中、現場運営にはこれからもさまざまな影響が及ぶことが見込まれます。

サービス活動増減差額比率とはどんな指標?

2020年度の特養や通所介護などの経営状況がどうなっているかについて、独立行政法人・福祉医療機構が融資先データを用いたリサーチレポートを出しています。経営指標として取り上げているのが、サービス活動収益対サービス活動増減差額比率(以下、サービス活動増減差額比率)です。

この指標について、簡単に説明しておきましょう。まず「サービス活動収益」とは、本業となる介護・福祉事業による収益を指します。特養や通所介護などの場合、ほとんどは介護保険事業による収益と考えていいでしょう。つまり、ここでいう「収益」とは、介護保険事業による売上げととらえます。

一方、サービス活動増減差額とは、先のサービス活動収益からサービス活動にかかった費用を差し引いたものです。要するにサービス活動にかかる「利益(増減差額ともいいます)」です。なお、「費用」とは、人件費やサービス事業にかかった支出を指します。新型コロナ禍で増えた保健衛生にかかる費用も、ここに含まれます(ただし、新型コロナ禍のかかり増し経費については、さまざま補助金等でカバーされた部分もあります)。

収益が厳しくなっている中での「しわ寄せ」

ここまでをまとめると、サービス活動増減差額比率とは、「介護保険を中心としたサービスの収益」に対して、「費用を除いた利益がどれだけ出ているか」を示したものとなります。

たとえば、新型コロナ禍でサービス利用控えがあり、収益が下がったとします。一方で事業所・施設内での集団イベント等の自粛などにより、かかる経費(水道光熱費など)も減少しています。その結果として、サービス活動増減差額比率が、収益減ほど低下していないという状況も一部で見られるわけです。

一方で、費用の中の人件費は、簡単に減らすわけにはいきません。ただでさえ従事者の確保が困難な中、新型コロナ禍による労働負担がかかることでの離職を防ぐとなれば、一定の規模で人件費を上げ続けることが不可欠だからです。問題は、収益が厳しくなる中で、どこかにしわ寄せが生じることです。

問われる、各種コストをめぐるマネジメント

たとえば、福祉医療機能の年次推移の統計を見ると、特養では2011~12年度をピークとしてサービス活動増減差額比率は大きく低下しています。これは、介護分野の有効求人倍率が上昇し始めた時期とほぼ重なります。

ところが、2015年度あたりを境に、横ばい状況となっています。2015年度に、介護報酬の大幅なマイナス改定があったにもかかわらずです。仮説として浮かぶのは、大幅な報酬減を受けたコストカットが進んだことでしょう。実際、その頃から特養において、水道光熱費や備品類等の費用などをめぐり、大幅な経費節減が進んだという話も聞きました。

こうしたコストカットについては、それが現場のサービスにどのような影響を与えるかについて、きちんと精査するしくみがないと、従事者への水面下の負担が拡大しかねません。つまり、現場状況を評価(アセスメント)しながら改革を進めるといった、マネジメントの強化が必要になるわけです。

こうしたマネジメントがきちんと機能しているかどうかについては、その影響は一定のタイムラグを経て現れます。たとえば、「コストカットをめぐって、現場の声を十分に聞いてくれていない(備品などの選定や使用ルールなどが経営側によって一方的に決められてしまうなど)」という状況があるとします。

来年以降、現場リーダークラスの動向は?

そうしたケースの多くは、現場にとって「我慢すれば何とか対応できる」という状況かもしれません。しかし、小さな不満は少しずつ蓄積します。不満が一定程度たまると、そのはけ口が現場リーダークラス(いわゆる中間管理職)に向けられることもあるでしょう。

その結果として、リーダークラスの精神的な負担感が高まり、ある時点でバーンアウトなどをもたらします。一概には言えませんが、何らかの業務環境の変化が生じてから1~2年といったタイミングに注意が必要です。

コストカットの話ではありませんが、たとえば2018年度改定で、訪問介護の現場リーダークラスにあたるサービス提供責任者(サ責)の実務が一気に増えました。その後の介護労働実態調査を見ると、2020年度にサ責の離職率が一気に高まっています(約37%増)。

背景としてコロナ禍での感染対策等のマネジメント増が指摘されます。しかし、それはあくまでトリガー(引き金)であり、「それまでの管理業務負担の蓄積」の上に「新型コロナ対応」という要素が積み重なったことで表に出てきた現象と見た方がいいでしょう。

こうしたケースを考えると、新型コロナ禍で現場のコストカットなどが進んだとして、年明けあたりから現場従事者(特にリーダークラス)の動向に注意が必要になります。今回の場合、2021年度改定にともなう各種新基準やLIFE対応などにかかる管理業務が一気に増えています。その点を考えれば、想定以上のひずみが生じている可能性もあります。

来年から次の制度改正をめぐる議論も始まりますが、特に現場リーダークラスの就業動向等については、つぶさに注意したいポイントと言えるでしょう。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。