総合事業緩和と利用者の選択権

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2021年4月より新たな介護報酬・基準が適用されています。と同時に、地域支援事業においても、新年度から新要綱が施行されました。その要綱見直しにかかる新旧対照の条文が、9月21日付けで改めて示されています。注意したいのは、ケアマネジメントとの関連です。

補助事業にかかる要介護者利用の制限が緩和

今回の見直しで改めて注目されるのが、総合事業における介護予防・生活支援サービス事業の一部で、利用対象者の拡大が図られたことです。具体的には、補助(助成)で行なわれる第一号事業(住民主体でのサービスB型、および一部D型)について、以前から継続的に利用していた人が要介護状態になった後も、「引き続き利用できる」とする内容です。
 これは、「地域とのつながりを継続する」という観点からの見直しで、当初案ではB型だけでなく従前相当サービスやA、C型も含まれていました。しかし、当事者団体の一部などから、「要介護者の保険給付外しに道を拓く」ものとして反対声明などが出されました。
 こうした点を受けて、昨年10月に示された省令では、「(サービスB型など)補助(助成)で行なわれる事業のみ」が対象となりました。それまでも「要支援者等が過半数」の状況であれば、要介護者の継続利用も可能でしたが、さらなる緩和が図られたわけです。

ケアマネとしてはどう向き合えばいいか?

なお、この見直しをめぐる「考え方」については、今年3月に2020年度の老人保健健康増進等事業の一環として示された「介護予防・日常生活支援総合事業の利用に関する調査研究事業【報告書】」で詳細に解説されています。同報告書では、「要介護者が給付を受けられなくなる」という懸念にも配慮しつつ、「ケアマネジメントを通じた適切な事業の利用が担保されること」を重視しています。

たとえば、総合事業(B型等の補助サービス)を利用していた人が要介護者となり、新規に介護給付の対象になったとします。そこで担当するケアマネとしては、利用者の意向を踏まえつつ、総合事業の利用継続をどのように進めるかを考えることになるでしょう。

象徴的なのが、ボランティア等による訪問型Bで身の回りの支援を受けていたケースでしょう。本人や家族が「自分たちのことをよく分かっている担当者の方が安心できる」として、B型の継続利用を望んだとします。ケアマネとしては、その点を踏まえた「継続利用」をプランに位置づけるかもしれません。

訪問介護の生活援助よりもB型の継続か?

一方で、利用者の生活課題の分析を通じて、利用者の生活にかかる意向の実現には、「給付による訪問介護も必要」という判断に至ったとします。その際には当然、利用者との間で「給付による訪問介護の必要性」にかかる認識を共有し、新たなサービスをプラスするための合意形成が必要になるでしょう。

問題は、その必要性にかかる上記の認識共有が不十分だと、「身の回りの世話は今までのヘルパーさんで十分。『できなくなった部分』の介助を身体介護でお願いするだけでいい」といった意向の確認にとどまりがちになることです。本人が認知症で、十分な意思確認を図る前に、家族による「本人も慣れた人の方が安心する」といった流れになれば、「それでいい」となりがちなケースもあります。

確かに、なじみの担当者との継続的な関係は、その安心感から生活意欲の維持・向上に資するかもしれません。問題は、そこに「当事者以外の周囲による決めつけ」が生じていないかという点です。当然ながら、(同じ生活援助でも)コミュニケーションの取り方等により、本人の可能性はもっと広がるのではないかといった掘り下げが大切になります。

本人の選択権保障に向けたケアマネの重責

今回の改定は、「あくまで利用者の選択肢を広げたもの」であることが強調されています。しかし、それは「本人の選択権」がきちんと保障されたうえでのことです。

「今のままの生活で十分」という言動が、果たして「本人の心からの選択」にもとづいたものなのかどうか。実は、さまざまなバイアス(家計事情や家族・地域との複雑な関係性、あるいは制度にかかる情報不足やハードルなど)によって曇らされていないのか。

こうした当事者をめぐるバイアスを精査しつつ、本人なりの尊厳ある未来像を(本人と一緒に)磨き上げていく──ここにケアマネジメントの重要な役割があり、社会構造が複雑になる中でますます問われています。

たとえば、情報不足で言うなら、総合事業のB型と給付による生活援助はどこがどう違うのか。後者を利用することで、本人の「こうありたい」という可能性がどこまで広がっていくのか。こうした認識共有と合意形成の過程が整ってこそ、初めて本人の選択権は保障されると考えるべきでしょう。

考えてみれば、こうした部分的な改定が積み重なるたびに、現場のケアマネには利用者と向き合うための知見やスキルの高度化がますます要されています。その点では、地域支援事業上でもケアマネの重責にかかる指標をもっと明らかにするべきではないでしょうか。

そうした指標に沿って、そのつどケアマネにかかる報酬を積み上げていくことが重要です。「利用者の選択肢を広げる」というビジョンは言葉ほど簡単ではなく、常に必要なコストが要されることを忘れてはなりません。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。