介護福祉士目指す人が増えた草の根背景

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公益社団法人・日本介護福祉士養成施設協会(介養協)が、2021(令和3)年度の介護福祉士養成施設の入学者数や定員充足度等に関する調査結果を公表しました。それによれば、前年度から入学者数は135人増に。コロナ禍で外国人留学生等が減少する一方、日本人入学者の増加が全体数を押し上げています。

入学者増も手放しで喜べない事情に注意

介護業界としては、今回の結果を前向きにとらえたいところでしょう。ただし、楽観視ばかりはできません。何より、施設数・定員数ともに減少傾向は続いているからです。

確かに、一定の淘汰が行われることで養成の質向上が期待できるという見方もあるでしょう。問題なのは、養成校の存立に地域格差が生じ、入学者側に不利益が生じる可能性です。たとえば、養成校に通うための交通費負担が増えたり、養成校近くに移住せざるを得ないといった事情も増えることが考えられます。そうしたコスト面の補助などをどうカバーするかが、今後も問われるわけです。

今回の入学者数の増加は、近年減少の一途をたどっていた新卒者等が増えたことが寄与しています。若年人口が減少し続ける中で、新卒者が増えたというのは、確かに大きなターニングポイントかもしれません。

しかし、これについても「特定処遇改善加算等や養成施設ルートにおける経過措置の延長」などの効果があったのか、あるいは「新型コロナ禍等による景気低迷で、進路の選択が狭まった」という環境要因があるのか──こうした背景をきちんと掘り下げることが必要でしょう。継続的な入学者増を目指すなら、後者のような環境要因に配慮しつつ、さらなる後押し施策を続けることが欠かせません。

若い人たちの関心を呼び起こす介護の未来像

一方で、入学者増については、上記のような事情のほか、地域レベルでのさまざまな参入促進の取組みが功を奏してきたことも考えられます。具体的には、養成施設が地域の介護事業を展開する法人等と連携し、さまざまな機会を通じて、「介護業界の新たなトレンド」などを若年層にPRする機会を設けるといった取組みなども目立つようになりました。

新たなトレンドのうち、ハイテク関連でいえば、以下のようなものも登場しています。利用者一人ひとりの生い立ちや趣味をインプットし、それによって利用者と個別のコミュニケーション対応を行なう人間型ロボット。利用者(あるいは従事者)の表情や声のトーンをAIが分析し、現在の意欲状況などを「見える」化するといったシステム──など。

あるいは、(介護福祉士にとって重要となる)リーダークラスのマネジメントでいえば、修得効果の上がる研修プログラムの構築技術やチーム内のコンセンサス(合意形成)の取り方。介護技術でいえば、人間工学や心理学にもとづいたリスク先読みの理論など。

これらを現場実践にもとづいて紹介することにより、介護業界の新しいクリエイティブな一面にふれてもらうことで、若い人たちの関心を呼び起こすというわけです。

SNS等による双方向を通じたすそ野の拡大

もちろん、介護業界のことを知るほど、低賃金や多様な業務負担などの「負のイメージ」に接する機会も多くなります。先のような見栄えのいい「クリエイティブな面」だけを伝えても、現実的な職業人生を歩むうえではどうしても壁に直面しがちです。

そうした時に、一歩踏み出せるかどうかを左右するのは、「自身の迷い」にきちんと応えてくれる人の存在です。つまり、未来をクリエイティブする立場から、介護福祉士の卵となる人々との双方向のコミュニケーションを築く機会が設けられていることが重要です。

現在、各地には次の介護業界を背負って立つ「カリスマ的な若手リーダー」が数多く登場しています。これから介護福祉士として育っていく人々にとっては、憧れの存在と言っていいかもしれません。

そうした「憧れの存在」からの発信機会とともに、それをきっかけにSNS等を通じたコミュニティを形成していく光景が見られます。そこで、未来に向けたさまざまな思いをやり取りすることにより、地域における人材のすそ野が大きく広がっていくわけです。

問われる、地域の「リーダー」掘り起こし

実際、こうした取組みを自治体が支援するという流れは大きくなっています。ここに地域医療介護総合確保基金などを活用することで、「国が定めたメニュー」にとどまらない、地域の実情に沿った効果的な取組みとして広げていくことも可能でしょう。

地域単位の取組みを見ていると、先に述べたように、「養成校の入学者」の増加には、そうした草の根の取組みの効果が現れ始めたという面もあると見ています。となれば、今後の分析においては、先のような取組みがしぼんでしまわないようなフォローアップの提言を打ち出していくことも必要でしょう。

全国の自治体担当者としても、地域の介護現場にどんな「トップランナー(クリエイター志向の強い若手リーダー)」がいるのかを把握し、彼らの実践を地域の財産として組織化していくことが求められます。「予算をつける」だけでなく、「未来の担い手をいかに組織化するか」という観点から、自治体独自の手法がますます問われる時代となりそうです。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。