人員配置等の基準緩和。 制度として進める前に必要なこと

イメージ画像

人員配置基準を4:1に緩和する。ユニット型特養の1ユニットあたり定員を「おおむね15人以下」とする──政府の規制改革推進会議・医療・介護WGで、法人・自治体側によるプレゼンで提案された改革案です。現場側からの発案という点で、大きな意味を持ちます。

提案側の取組み、実は一筋縄ではなかった

冒頭で述べたような規制改革案は、この案だけを取り上げれば、かなりセンセーショナルです。しかし、大切なのは、「なぜそうした提案に至ったのか」という道筋です。この点をしっかり押さえず、ただ「現場が提案しているから」という理屈だけで形式的に施策に取り込むことは、大きな問題があります。

たとえば、プレゼンターとなった社会福祉法人の取組みを見ると、業務改善の取組みは決して一筋縄ではなかったことが分かります。

2015年に、ボトムアップ(現場従事者発の取組み)の品質向上のしくみを全国で視察し、検証。そのうえで、2016年からコンサルタントを導入してトヨタ方式(※1)の基礎を学び、5S活動(※2)や作業改善をスタートさせました。結果として、法人内事業所で一定の作業時間減を実現させたといいます。

※1 トヨタ方式…トヨタ自動車が開発した、現場の生産活動における合理化の手法
※2 5S活動…現場の作業改善の基本となる5つの理念。「整理」「整頓」「清掃」「清潔」「しつけ」の各頭文字(S)を意味する

一般的な生産性向上の取組み、波及は困難?

一方で、以下のような課題も報告されています。それは、介護は対人援助サービスであり、非定型業務が中心であるという点です。それにより、1つの作業時間が減っても目の前の業務は際限なく発生します。結果的に、職員全員が実感できる成果にはつながらないとしています。まさに、試行錯誤で改革に取り組んできた現場ならではの実感でしょう。

そのうえで、同法人のプレゼンでは以下のような訴えも見られます。それは、一般に紹介されている多くの介護の生産性向上の取組みについて、「取組みが紹介されても波及が困難」というもの。生産性向上の旗振りを行なう国としては、耳の痛い話かもしれません。

となれば、現場の業務改革は、そこから先の取組みがポイントとなります。紹介されているのは、現場で行なわれている業務の分析を行なったうえでの以下のような取組みです。

「現場ごとに異なる業務」の分析が不可欠

具体的には、「人によるバラつきをどのように解消するか(標準化)」、「固定業務が集中しやすい時間帯をどのようにならしていくか(平準化)」、「過剰に行なってきた業務をいかに整理・削減するか(簡素化)」──この3ステップへの取組みが紹介されています。

たとえば、「簡素化」で言うならば、重複した記録を整理・削減したり、一見「サービスの質向上」に資する取組みを検証してみると、実は簡素化できるものもあるという具合です。

もちろん、この3ステップの具体的な中身については、現場ごとの状況(利用者の傾向など)によって異なるはずです。となれば重要なのは、最初に行なう「各現場で行なわれている業務の分析」です。この工程がないまま、一律に制度上での定めを取り入れていくことは、大きな混乱をもたらしかねません。

加えて、日々状況が目まぐるしく動く介護現場においては、上記の「業務分析」にかける時間や手間そのものを確保しにくいケースもあります。現場の協力を得るという点では、従事者が納得したうえでのコンセンサスをどのようにとっていくのかも問われます。

カギとなるのは現場従事者の合意の取り方

この点でカギとなるのが、現場従事者のコンセンサスの取り方です。現場で働く人々にも、さまざまな考え方や志向性があります。これを法人トップの視点だけで取りまとめようすると、現場側に「上からの指示だから仕方ない」という受け身の姿勢が生じがちです。これが、従事者の真の納得と改革に前向きに取組む意欲には、大きな壁となりかねません。

そうなると、必要になるのは「従事者一人ひとりが自らの働き方を決める」という自己決定権の確立でしょう。それを保障する土台としては、現場ごとに(小規模事業者であれば地域単位の連絡会形式で)「従事者の代弁機関」としての労働組合をきちんと設けることではないでしょうか。つまり、介護労働環境の整備の土台として、労組の結成・従事者の加入を推し進めることが求められるわけです。

影響を受ける「当事者」の目線も尊重すべき

もう1つ必要なのは、現場の業務改革について、「利用者がどのように受け取るのか」、言い換えれば「利用者のサービスに対する満足度にどのような影響を与えているか」を当事者目線で確認するしくみです。満足度にかかる意思表示を被保険者の「権利」とすれば、それを保障するものも必要になるわけです。

まとめると、事業者側、従事者の代弁機関となる労組、そして利用者の意思を代弁する被保険者による組織──この三者で合意形成を図ること。これを、基準緩和等の制度改革の基本と位置づけることが求められます。

「それでは、いつまでたっても改革が進まない」という意見もあるかもしれません。しかし、それは上記のような権利擁護の土台を文化として築いてこなかったツケに他なりません。土台がなく一から始めるとなれば、時間がかかるのは当然です。急がば回れの言葉通り、すべてのステークホルダー(利害関係者)が合意できるしくみを根本から築くこと──ここから始めるべきではないでしょうか。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。