公的価格評価検討委員会が再スタート。 現場従事者に寄り添う施策は期待できるか?

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内閣府による公的価格評価検討委員会が、第4回の会合を開催しました。第3回会合までの中間整理を受け、今年2月からの介護職員等の月額平均9,000円アップを目指した補助金等(10月からは介護報酬上の新たな処遇改善加算)が誕生しています。今後は、どのような対応が見込まれるのでしょうか。

従事者の収入増を目指す施策は打ち止め?

第4回以降で検討されるテーマは、大きく分けて2つ。1つは「費用の見える化」、もう1つは「デジタル活用」です。

前者では、人件費以外の費用の使途を分析しつつ、現場従事者への費用配分が適正に行われているようなしくみが視野に入っています。後者では、ICT等の活用による業務省力化と人員配置の効率化など、規制改革推進会議の議論との重なりも目立ちます。

これらのテーマを見る限り、「予算措置等による収入増の流れは、先の補助金と10月からの新加算で打ち止め?」と考える人もいるのではないでしょうか。もちろん、上乗せ施策のためには、上記の施策に加え、コロナ禍で施行されているさまざまな支援金の効果検証を行ないつつ、2023年の介護給付費分科会に引き継がれるという見方もできます。

しかし、仮に今年中にコロナ禍が収束して経済が活発化していくとなれば、業界間の人材確保競争が激化する可能性があります。ただでさえ労働力人口の減少が認められる中、「一歩先を見すえた対応」として、さらなる処遇改善に向けた議論を継続させることは、介護資源の基盤整備という責務を担う政府としてか欠かせないはずです。

「費用の見える化」に向けた制度改正が?

上記のような流れが形成されるかどうかについては、第5回以降の議論に期待するとして、とりあえず第4回にかかげられた2つのテーマを掘り下げることにしましょう。

まず前者の「費用の見える化」ですが、すでに今年開催が想定される介護保険部会の議論、そして来年にも実施される介護保険法の改正のポイントが垣間見えます。

その一つが、骨太の方針2021でも示唆されている「介護サービス情報の公表」に「財務情報等」を加えることです。すでに社会福祉法人については、社会福祉法により財務諸表等の電子開示のしくみが設けられています。これを介護保険法でも位置づけることで、社会福祉法人以外にも開示を義務づける──この見直しはほぼ確実に行なわれるでしょう。

ここに、(人件費以外の)費用・積立金の使途や人件費の職種間配分などの公表義務が加わることも考えられます。政府がさらに厳しい対応を取るとすれば、使途や配分そのものを規定するルールを設ける可能性もあります。

「デジタル活用」のカギとなるICT導入支援

次に後者の「デジタル活用」ですが、これを考えるうえでは、以下の2つの課題に配慮しなければなりません。1つは、デジタル化に向けた「コストの問題」。もう1つは、そのデジタル化が「本当に現場の従事者の負担減につながっているのか」という点です。

コストの問題で大きなカギとなるのは、やはりICT導入支援事業でしょう。一定の要件を満たせば補助率は3/4(それ以外は1/2)、最大上限260万円が補助される(この「一定要件」の中には、2022年度から「ケアプランデータ連携システムの利用」も追加されます)ものですが、助成事業所数は2020年度で2,560事業所にとどまっています。

ちなみに、ロボット導入支援事業も、2020年度の実績は上記のICT導入支援事業とほぼ同じ。見守りセンサーやパワーアシストロボットなど、従事者の負担軽減に直接資する分野でもこの数字です。となれば、仮にLIFE活用が制度化された2021年度以降にICT導入の実績の伸びが期待されるとしても、限度はあると見た方がよさそうです。

ICTが現場負担減につながる「実感」が大切

ここで考えたいのは、2つめの課題、つまり「ICT等の活用が本当に従事者の負担減につながっているか」です。この点について、現場の「実感」が十分に醸成されなければ、ICT導入支援事業などの活用もおぼつかないでしょう。特に規模の小さな事業所にとって、現行の補助率では「得られるメリットとのバランスがとれない」となりやすいからです。

こうした課題を解決するには、何が必要でしょうか。実は、そのヒントが今会合で示された「子ども・子育て分野」の中に見られます。それは、「保育ICTの全体像」の中の「IoTツール」で示されている「保育士のストレスチェック」と「児童の関係性(児童と保育士の関係性も含まれると思われます)の可視化ツール」です。いずれもまだモデル事業等の対象ではないものの、保育士の心理的負担などについてICTで可視化していくというテーマが上がっているのは大きなことです。

これに対し、介護分野はどちらかというと「利用者の状態」が焦点であり、介護従事者の内面的な負担などを測定するという視点には至っていません。利用者の状態にスポットを当てるのなら、現場で関係性を築いている従事者の状態把握にICTを積極活用するという方向性があってもしかるべきでしょう。

もちろん、これだけでICT活用が劇的に拡大するとは限りません。しかし、少なくとも「効率化」よりも「従事者の働きやすさ」を最優先とする活用ビジョンが強化されれば、風向きは変わる可能性もあります。介護保険部会などでも考察してもらいたい点です。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。