小学生ヤングケアラー実態に初のスポット ケアマネも「発見者」となる可能性が

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厚労省が、2021(令和3)年度の「ヤングケアラーの実態に関する調査研究」の報告書(実施主体:日本総合研究所。子ども・子育て支援推進調査研究事業として実施)を公表しました。今回の調査では、中高生に加え、これまで実態把握が行われてこなかった小学生や大学生も対象としています。介護現場等では、どのような配慮が求められるでしょうか。

「家族の世話」をする小学生への目配り

今調査内での小学6年生を対象としたアンケートによれば、「家族の世話をしている」と回答した人が6.5%にのぼります。この数字そのものも深刻な実態を現わしていますが、より重要なのは、この「6.5%」の小学生に、どれだけ周囲の大人が目を配れるかでしょう。

たとえば、小学校を対象とした調査内での自由回答では、「ヤングケアラーの定義に相当する世話や介護が『日常的なお手伝い』であるか、『登校に支障をきたすほど重度の負担』にあたるかの判断が難しいケースも少なくない」という声が上がっています。当事者は小学生ですから、自分が置かれた環境等を客観的にとらえ、周囲の大人に課題として発信することは難しいことが背景にあります。

たとえば、本人の認識が「日常的なお手伝い」だとしても、客観的に見た場合に「その範囲を超えている」こともあります。父母から「手伝いをしなさい」と言われれば、本人にとって「それは他の子どもたちも行なっている当たり前のこと」という認識を持つかもしれません。そうなると、学校で「自ら教師など周囲の大人に相談する」という行動には、ますます結びつきにくくなります。

サインの読み取り──学校任せの課題

この点を考えれば、実態把握のためには、学校現場において「本人の状態(健康状態や欠席・遅刻などの状況)に気を配る」、「本人からの申し出がある前に、家庭での生活について何でも話せる機会や大人との信頼関係を築く」という取組みの強化が欠かせません。

実際、今調査では対象となる小学生のうち、「健康状態がよくないorあまりよくない」、あるいは「遅刻や早退をたまにする・よくする」という回答は、「家族の世話をしている」ケースがそれ以外の2倍に達しています。さらに「授業中に寝てしまう」「宿題ができていない」「忘れ物が多い」という状況も、やはり2倍前後になっているといいます。

学校側として、こうしたサインを読み取れるかどうかが問われるわけですが、教職者の多忙が社会問題となる中、どこまで機能するかとなれば課題も多いでしょう。結局は、地域の多機関・多職種によるネットワークの中で、状況を察知してしかるべき対応につなぐしくみが不可欠となってきます。

ケアマネがスキルを発揮すべき場面とは?

一方で、「世話が必要な家族=要介護者や障がい者等」というケースにおいては、ケアマネや相談支援専門員などの援助職の役割も、今後は重視されてくるかもしれません。

たとえば、利用者宅でアセスメントやモニタリングを行なった際、利用者本人に小学生の孫が寄り添って話をしているシーンに出会うとします。それが本人の表情・言動をやわらげることにつながっている様子が見られ、その小学生の父母も家族として同席しているとなれば、「家族ぐるみで介護に取り組んでいる」という印象を受けることもあるでしょう。

しかし、その小学生と本人との関係性が「常時」のもの(ケアマネがそこにいない間もずっと続いている)となれば、どうでしょうか。つまり、祖父母との交流が、本人にとって「役割」として位置づけられている場合、勉強や遊び、友達との交流などの機会が、それによって損なわれているという可能性にも想像をおよばせる必要が出てくるわけです。

そうした点を考えたとき、その世帯状況を客観的に見ることのできる存在として、ケアマネの「ヤングケアラーの発見者および多機関へのつなぎ役」としてのスキルも問われてくることになります。ケアマネジメント手法や法定研修のカリキュラムなどでも、今まで以上の盛り込みが強化されるかもしれません。

次期改定でヤングケアラー関連規定も?

2022年度の診療報酬改定で、医療側の入退院支援加算での情報収集項目に「ヤングケアラーの存在」が加わりました。当然、ケアマネ側の入院時情報連携加算においても、医療機関側に提供するべき情報として明確化が図られることになると考えられます。

たとえば、2024年度改定における加算要件や運営基準上でも、ヤングケアラーの発見・把握の規定が明記される可能性もあります。また、ヤングケアラーを発見した場合に、地域の子ども・子育て支援ネットワークなどへの通告義務なども定められるかもしれません。「またしても地域内での役割・責務が増える」と辟易するケアマネも多いでしょうが、2024年度に向けてケアマネの処遇改善を求めていく中では、こうした「ヤングケアラーにかかる役割」等も視野に入れる必要があります。

いずれにしても、今調査で「小学生のヤングケアラーの実態」が少しずつ明らかになり、世帯内の複雑化する課題にますます社会の目が注がれる機会が増えていきます。各居宅介護支援事業所内での研修をはじめ、地域の連絡会の合同研修などでも、「ヤングケアラーの発見」をテーマとしたケース検討会などを積極的に開催し、「発見の糸口」となるヒントなどを蓄積しておきたいものです。


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◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。