引き続き、4月13日の財政制度等審議会(財政制度分科会)で提示された、ケアマネジメントにかかる改革案を取り上げます。今回は、もう1つの案となる「福祉用具貸与のみをプランに位置づけた場合の報酬引下げ」についてです。ケアマネジメントの根本にかかわるテーマであることに注意が必要です。
「必要のない福祉用具貸与」を財務省が指摘
ケアマネは、介護保険サービスをケアプランに入れなければ、介護報酬を受け取れません。2021年度改定で、「看取り期におけるサービス利用前の相談・調整」については報酬の対象となりましたが、算定ケースとしては限られます。そうした中、財務省側が指摘したのが、「介護報酬算定のため、必要のない福祉用具貸与等によりプランを作成した」ケースが「一定以上ある」という点です。
その「一定以上ある」の根拠としたのが、「ケアマネジメントの公正中立性を確保するための取組みや質に関する指標のあり方に関する調査研究報告書」(一般財団法人・医療経済研究機構が厚労省の老人保健健康増進等事業の一環として、2019年度にまとめたもの)です。その中のケアマネ1,303人(有効回答)を対象としたアンケートで、「本来であればフォーマルサービスは不要と考えていたが、介護報酬算定のため、必要のない福祉用具貸与等によりプランを作成した」というケースを取り上げ、その「経験の有無」や「見聞きしたことがあるか」を尋ねています。
財務省側が取り上げたのは、このうちの「見聞きした」という回答です。それによれば「よくある(3.3%)」、「ときどきある(12.4%)」で、合計で15.7%となります。
福祉用具のみでの報酬引下げ…以外の本筋
この数字をもって「一定以上ある」としたうえ、さらに「歩行補助杖を自費で購入」した場合と、「ケアマネジメントを通じて福祉用具貸与」とした場合の費用額を比較。それにより、後者の方が3年間で約40万円の費用を要しているという結論づけました。
そのうえで財務省側は、「福祉用具の貸与のみを行なうケースについては報酬(居宅介護支援費)の引下げを行なう」ことを提案しました。ただし、注意したいのは、この点が本筋ではないことです。強調されているのは、「(ケアプランに位置づける)サービスの内容に応じた報酬体系とする」という点です。
これをそのまま読めば、ケアプランに位置づけたサービスによって居宅介護支援費を変動させるという趣旨にとれるでしょう。仮に位置づけるサービスによって居宅介護支援費を変動させるとすれば、法人側に「不必要でも報酬が上がるサービスを盛り込もう」とする動きが強まる懸念があります。
訪問・通所介護の給付カットも視野に?
ここで、もう一つの財務省側の狙いに目を移してみましょう。それは、財務省が軽度者への訪問・通所介護の給付カット(総合事業への移行)を求めていることです。その流れと照らし合わせれば、「訪問・通所介護のみのプラン」についても、居宅介護支援費の引下げを示唆している──と見ることができます。
つまり、「サービス内容に応じた(居宅介護支援の)報酬体系」というのは、「利用者のサービス利用」を国がコントロールする(例.訪問・通所介護を安易に使わせない)という流れを開くことになります。
もちろん、選択サービスによって居宅介護支援費が変動するとなれば、仮に「ケアマネジメントに利用者負担」が導入された場合、利用者としては「安い方がいい」というインセンティブが働きます。一方で、そうなればケアマネ側の収入が下がります。
ケアマネとしては、無理やり「高いサービスを位置づける、あるいはサービスの量を増やす」ということはしないまでも、適切なケアマネジメントをしているつもりが、利用者に値切られる──といったケースに直面しがちになるわけです。これは、ケアマネと利用者との間の関係を壊す要因になりかねません。
公正中立の確保に向け、本来なすべきことは
こうして見ると、「サービス内容に応じた報酬体系」というのは、適切なケアマネジメントを阻害する危険が高い改革案といえます。
そもそもケアマネジメントというのは、援助側(ケアマネ)と利用者の間の信頼関係の構築により、利用者の意欲向上やその延長にある生活の自立に資するものです。これが阻害されてしまえば、利用者の自立支援を否定することにもなりかねません。
適切なケアマネジメントという観点でいえば、本来「なすべきこと」は、「介護保険サービスをケアプランに入れなくても報酬が発生する」というしくみを整えることではないでしょうか。実は、先の報告書を取りまとめた医療経済研究機構は、「ケアマネジメントの公正中立性の確保のためにすべきこと」として、以下のような提言を行なっています。
それは、「介護給付の利用に縛られず、多様な地域資源で支えるケアマネジメントを評価すること」というものです。「保険給付を伴わないインフォーマルサポートのみのケアマネジメントへの評価」については、日本介護支援専門員協会も審議会の場で要望しています。
財務省側としては、この本筋を無視したデータ引用をしていることになり、これは今後も物議を醸しそうです。いずれにしても、今年の介護保険部会が、今回の財務省側の改革案をどう受け止めるのか注視が必要です。
【関連リンク】
福祉用具貸与のみのケアプラン、介護報酬のカットを 財務省 2024年度からの実施を主張|ケアマネタイムスbyケアマネドットコム
財務省、訪問介護・通所介護の給付カットを提言 「要介護1・2を総合事業に」|ケアマネタイムスbyケアマネドットコム
◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。