7月10日投票の参議院議員選挙 介護現場の視点で、投票基準としたいこと

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2021年10月の衆議院議員選挙に続き、今年は参議院議員選挙が行われます(投票日7月10日)。物価対策や安全保障などが大きな議論となる一方、少子高齢化が一段と進む中での社会保障も欠かせない論点です。貴重な一票を投じる前に、介護現場の視点で「何を見定めるべきか」を整理します。

全世代型社会保障構築会議の中間整理に注目

今年5月、内閣府の全世代型社会保障構築会議が「議論の中間整理」を行ないました。その冒頭部分は、以下のように述べています。

「給付は高齢者中心、負担は現役世代中心となっているこれまでの社会保障の構造を見直し、将来世代への負担を先送りせずに、能力に応じて皆が支えあうことを基本としながら、それぞれの人生のステージに応じて必要な保障をバランスよく確保することが重要である」

これを「介護施策」という観点で当てはめた場合、やはり気になるのは「能力に応じて皆が支えあう」という文言でしょう。そのまま受け止めると、「所得に応じた利用者負担」を再編し、「負担のすそ野を広げる(つまり、皆が支えあう)」というビジョンが浮かびます。

連想されるのは、「2、3割負担の拡大」でしょう。ただし、これが「将来世代への負担の先送り」を防ぐことにつながるのかといえば、たとえば「介護」は世帯ぐるみの課題となりがちな点で引っ掛かりが出てきます。

22年前と変わらぬ「基盤整備」という目標

いみじくも、この「中間整理」では、「家庭における介護の負担軽減」を主要テーマの一つに掲げています。そこで、「家族の介護力の低下」を見すえて、「介護の基盤整備を着実に実施していく必要」が強調されています。

ただし、「家族の介護力の低下」を受けた「介護の基盤整備」の推進は、そもそも22年前の介護保険スタート時のビジョンの1つだったはず。仮に基盤整備をさらに進めるというのなら、現時点で考えるべきは「次のステップ」でしょう。つまり、基盤整備を進めつつ、そこでサービスを提供する従事者確保に向けた思い切った施策、サービス基盤へのアクセスハードルを最大限低くすることです(この課題も今に始まったことではありませんが)。

従事者確保については、「処遇改善」もかかげてはいますが、「事業報告書等を活用した費用の見える化(内部留保に原資を求める方策)」や「経営の大規模化・協働化(スケールメリットで原資をねん出する方策)」といった案件絡みとなっています。より直接的な処遇改善は、先だってのベースアップ等支援加算で当面はとどめ、介護事業の経営改革という点にスポットが当てられているといえます。

利用者負担増が「全世代型」を揺るがせる!?

一方、サービス基盤へのアクセスですが、「負担増」はそのハードルを上げかねません。政府としては「能力に応じた負担増」を強調しますが、その(資産)能力の判定が国民の実生活の状況とズレてしまえば、介護ニーズが充足できない世帯が増える恐れもあります。

ここに、「ケアマネジメントへの利用者負担の導入」が加われば、入口段階からのアクセスのハードルはさらに上がります。特に考慮しなければならないのは、「中間整理」でも力点を置いているヤングケアラー支援です。

当の利用者に相応の資産があったとしても、ヤングケアラーが自らの意思で「今の状況を改善しよう」という一歩を踏み出すエネルギーをどこまで持ちえるでしょうか。大切なのは周囲の支援職のかかわりですが、そこに「利用料」という因子が加わることで障壁が生まれてしまうことが懸念されます。

ヤングケアラーへの支援の拡充は、まさに現役世代の支援につながるものであり、わが国の介護施策が「全世代を通じた支え」であることの象徴とも言えます。その象徴的な存在が「負担増」という点で取り残されてしまうとすれば、全世代型と銘打った社会保障の一貫性が揺らぎかねないでしょう。

介護は「全世代を通じた支え」という視点

介護は「全世代を通じた支え」と述べましたが、それはもちろん「仕事と介護の両立」が課題となる世代も同様です。「中間整理」では、介護休業制度の取得をカギと位置づけ、その「一層の周知を行なうことを含め、男女ともに介護離職を防ぐため対応が必要」としています。ただし、周知以外の具体策については、まだ踏み込まれていません。

そもそも同構築会議の直近データにおいて、その5年前よりも介護休業の取得率は下がっています。その状況を見れば、介護休業制度等の「周知」よりも、利用ハードルを劇的に下げるための介護保険制度側の見直しが必要でしょう。ケアマネの「仕事と介護の両立支援」の強化も重要ですが、そこには報酬上のインセンティブ(あるいはケアマネの企業雇用促進など)も求められます。

しかし、そこに「負担増」というハードルUPを差し挟まれると、施策効果が打ち消されかねません。つまり、ここでも全世代型の社会保障についての一貫性に「揺らぎ」が生じることになるわけです。

こうして見ると、介護という「全世代を通じた支え」を体現している制度上に、さまざまな矛盾が浮かんできます。この矛盾を各候補者がどのように説明できるか──今回の参議院議員選挙では、この点を1つの基準とすることで一票を投じやすくなるはずです。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。