生活援助従事者研修の普及がいまひとつ 訴えきれない「生活援助の専門性」

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厚労省が「生活援助従事者研修の普及等」について通知を発出しました。通知内では、一般向けリーフレットや実施主体向けガイドブックのほか、調査研究のリンクも貼られています。2018年度に開始された生活援助従事者研修ですが、普及がいまひとつという状況も見られます。課題はどこにあるのでしょうか。

実施見込みも含めた都道府県数は半数以下

生活援助従事者研修のスタートから2年が経過した時点(2020年度)で、生活援助従事者研修の実施実績がある都道府県は17。一方、「生活援助従事者研修に関する調査研究」(実施:エム・アール・アイリサーチアソシエイツ)によれば、2021年度時点で実施実績もしくは実施見込みがあるとする都道府県は21で、やや増加傾向にあります。

とはいえ、全都道府県の半数以下ですから、実施状況は決して芳しいとはいえません。なお、実施事業者を対象とした調査では、2022年度における実施の意向や見込みは8.8%と1割以下にとどまっています。コロナ禍という事情はあるとしても、普及に向けて厳しい状況であることに変わりはないでしょう。

今調査の取りまとめでは、「受講者の確保が難しい」という課題があがっています。その方策として、検討委員会内では「生活援助従事者研修の狙いを改めて整理できるとよいのでないか」という意見があります。さらに、「身体介護を除いた生活援助サービスを担うことができるということを分かりやすく明記すれば、身体介護に抵抗のある方も受講しやすくなるのでは」という意見も見られます。

今回のリーフレットに足りないものは何か

今回の厚労省が作成したリーフレットは、こうした意見を反映したものといえます。冒頭の「生活援助従事者研修とは?」というコーナーで、生活援助従事者が「できること」「できないこと」がイラスト付きで解説されています。その下には、「修了者はどんな所で活躍しているのか」が示されています。

いずれも、生活援助従事者研修を修了した後の「働き方」のイメージを分かりやすく示したものといえます。さらに、「どんな人がどんな動機で?」という疑問に応えるべく、さまざまな立場の研修修了者の声を載せています。他の研修・資格(介護職員初任者研修など)との関係を描く図もあり、キャリアステップへの理解も深めようとしています。

一方で、このリーフレット全体を読んで、「何か足りない」と感じる人もいるのではないでしょうか。実は、施策者側が伝えるべき重大なポイントが抜けています。それは、「支援を要する高齢者の生活に、なぜ生活援助が必要なのか」という理解を求める内容です。

生活援助の責任ある専門性にふれていない

今回の通知でリーフレットと同時に示された「研修実施に関するガイドブック」では、具体的な生活援助サービスの内容は示されています。しかし、これだけでは「利用者の求める家事を行なう」という理解にとどまりがちです。制度上は、介護保険の訪問介護の一翼を担っているわけですから、保険料や公費を財源とするサービスとしての「責任ある専門性」が求められるはずですが…。

たとえば、2018年度の基準改定では、サービス提供責任者(以下、サ責)からケアマネに対して、服薬や栄養(食事量・回数)など利用者の心身や生活状況にかかる情報提供を行なうことが義務づけられています。

その際の「情報」は、現場で「訪問介護の提供にあたり把握した」ものとなります。つまり、現場のヘルパーからサ責を通じ、ケアマネに伝えられることが想定されるわけです。その内容を記した通知では、あくまで「指定訪問介護の提供」にあたるものであり、身体介護には限定していません。当然、生活援助のケースも対象となると解釈できます。

生活援助の「給付外し」が垣間見える?

実際、訪問介護事業所の多くは、生活援助に際しても「利用者とコミュニケーションをとる」などの中で気になる点があれば、それが利用者の心身にかかわる状況でも記録に残すことを(生活援助型のみを提供しているケースも含め)ヘルパーに求めています。

たとえば、反応が鈍い、ろれつが回らないといった状況があるとして、脳梗塞あるいは猛暑の時期であれば熱中症などの疑いも浮かびます。そうした緊急を要する可能性があるケースでは、ただちに事業所に連絡するなどの対処も求められるでしょう。

生活援助従事者も、そうした場面にかかわる可能性があることを考えれば、そもそもの「訪問介護の専門性」とは何か、その中での「生活援助従事者の役割」とは何かについて、しっかり示すことが必要ではないでしょうか。

仮に「身体介護にかかわっていないのだから、生活援助従事者にそこまで求めない」というのであれば、省令等で明確にするべきでしょう。利用者やその家族にとっては、介護保険の訪問介護を利用していることに変わりはないわけで、何かあった場合に「専門性の範ちゅうでの責任」を問うことになります。

この点があいまいでは、研修を希望する人に一定の不安が付きまといます。そうした「責任ある地位」へのイメージが確かでない点に、研修が普及しない要因があるのではないでしょうか。うがった見方をすれば、「生活援助を介護給付から外したい」という施策側の思惑が、「生活援助の専門性」への訴えを中途半端にさせているのかもしれません。訪問介護のあり方全般にかかわる課題といえます。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。