コロナ「第7波」の特質から見えてくる? 8月上旬頃の介護サービス重大危機

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BA.5系統の変異株を主流とした、新型コロナウイルス感染症の「第7波」が急速に拡大しています。病床ひっ迫による在宅あるいは施設内療養のニーズも再び高まる中、国も体制確保等にかかる通知を改めて発出しています。「第7波」の特徴なども考慮しつつ、今後起こりうることを展望してみましょう。

重症者・死亡者の急増は、これから2週間後?

今回の「第7波」の状況について、現時点(7月23日付け厚労省データ)からは、以下のような読み取りができます。

第1に、新規陽性者数の伸びが、「第6波」と比べて、ほぼ倍になっていること。BA.5系統の感染力が非常に強いことの現れです。

第2は、現時点での重症者数や死亡者数ですが、「第6波」と比べると前者で6分の1、後者で4分の1程度となっています。ただしあくまで現時点であり、これをもって「重症化しにくい」とはいえません。新規感染者数の伸びと重症者数や死亡者数の伸びは、2週間から20日程度のズレがあるからです。

重症者・死亡者数の伸びが「第6波」と同じ推移をたどるとすれば、特に死亡者数は「第6波」を上回ることも考えられます。新規陽性者数に対する割合は低いとしても、医療体制におよぼす影響は、これまででもっとも厳しい状況になる恐れもあるでしょう。

第3は、「入院治療を要する者」の増加スピードが、新規陽性者数の伸び以上に急速になっていることです。つまり、年齢問わず、入院が必要なレベルの感染者数が、「第6波」を上回る勢いを見せていることになります。

医療・介護スタッフの急速離脱も懸念される

以上の点から介護現場で何が予測されるかといえば、言うまでもなく「自宅および施設内療養の(恐らく8月5日前後あたりからの)増加」です。加えて注意したいのは、医療・介護職側の感染状況も同時並行で深刻化する状況が「第6波」以上だということです。

つまり、利用者が感染しても「入院せず自宅や施設で療養せざるを得ない」ことに加え、そこで対応する医療・介護スタッフ(派遣応援含む)も感染による離脱が懸念されます。緊急時の体制確保をめぐり、過去のケース以上の深刻度も想定する必要があるわけです。

施設内療養など感染者が発生した場合には、施設等からの連絡・調整により、都道府県から感染制御・業務継続支援チームの派遣が行われます。また、協力医療機関や自治体が指定する医療機関・医療チームに対し、往診派遣の要請などを行なうしくみもあります。

これらの状況については、「第6波」が落ち着き始めた4月22日時点での実態調査も行われました。それによれば、前者の感染制御・業務継続支援チームの医療従事者数は全国で約3600人。後者の往診派遣に協力できる医療機関数は、約3100機関。さらに、自宅療養者に対してオンライン診療等を行なう健康観察・診療医療機関は、やはり4月22日時点で約2.3万機関となっています。

大規模法人で起こりうる「人員の一気集約」

問題は、先に述べたように「第7波」のこれまでにない感染者数の伸びにより、体制や人員が確保されていても、それが機能するのかどうかにあります。今後は、「初めて利用者の施設内療養に直面する」という介護現場も増えてくるでしょう。そうした中、「第6波で得られた他施設等の知見」を参考にマニュアル整備や訓練を積んできた現場が、「(自治体等への応援依頼等をめぐり)どうも勝手が違う」という場面も生じることが考えられます。

いざという時に、外部からの応援体制が機能しない──そこで、どのような事態が生じるかといえば、地域で基幹的にサービス資源を担っている法人が、「施設内療養」等への対応に向けて、その組織内での人員を一気に集約することです。たとえば、特養ホームにおいて、併設の短期入所や通所介護、さらには訪問介護なども休止するという具合です(実際に、過去の感染拡大でも見られた光景です)。

居宅系サービスを調整するケアマネとしては、「利用者が利用しているサービス事業所では感染者は出ていない」と確認していても、ある日突然「サービス休止に至る」といった状況に向き合うケースが増えてくるかもしれません。特に特定の大規模法人などにサービスが集中している地域などでは、そうした法人の中核的な施設などの状況に、これから十分に注意を払うことが求められます。

次期改定の議論にも波及─望まれる体制とは

こうして考えると、新たな変異株が確認されるたびに「感染力が強まっていく」という仮説は、常に施策の中心に据えることが必要になりそうです。そのうえで、介護サービス資源の継続性という観点から、どのような地域体制が望ましいか、現在開かれている介護保険部会でも重要な論点とするべきでしょう。

たとえば、経営効率の観点から法人の大規模化を進める見方があります(財務省などは「規模」に着目した報酬設定も提案しています)。しかし、それは「平時」では一見強固そうに見えて、今回のような急速な感染拡大ケースでは、意外にももろい面がありそうです。

むしろ、小規模法人が経営を維持できる環境を整えたうえでネットワーク化に重点を置くという方が、地域の資源維持には有効なのかもしれません。もちろん異論もあるでしょうが、検討したいテーマの1つといえます。

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◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。