高齢患者のオンライン診療を広げるために、実施の「場所」や「条件」のあり方が検討されています。8月17日に開催された社会保障審議会・医療部会でも、「遠隔医療のさらなる活用」に向けた議論が行われました。注意したいのは、2024年度の介護報酬・基準改定にも影響を与える可能性があることです。
オンライン診療を受ける「場所」について
まず、オンライン診療を受ける「場所」について整理します。そもそも医療が提供できる「場所」については、医療法第1条の2第2項において、「医療を提供する施設(老健や介護医療院含む)および医療を受ける者の居宅等」であることが定められています。
上記の「医療を受ける者の居宅等」については、特養ホームや有料老人ホームも含まれます。この取扱いについては、2018年3月の医政局長通知で「オンライン診療についても同様」である旨が示されています。ただし、「患者のプライバシーに十分配慮された環境」が確保されていること、「清潔が保持され、衛生上、防火上および保安上安全と認められるような場所」であることが条件です。
さて、上記では特養ホームが含まれているわけですが、通所介護などが併設されているケースが多いことを考えれば、当然「通所現場でもOK」とする考え方は出てくるでしょう。そうなれば、「単独型の通所介護はどうなるか」という論点も出てきます。また、「居宅から通う場」が含まれてくるとすれば、公民館等の「身近でよく足を運ぶ場所」といった、より広い解釈も視野に入ることになります。
オンライン診療時のサポートを誰が担う?
こうしたオンライン診療が可能となる「患者の居場所」については、今年6月に閣議決定された規制改革実施計画でも、「課題を整理、検討して(2022年度中に)結論を得る」ことを求めています。そこには、デジタルデバイスに明るくない高齢者の場合、患者の居宅にこだわるよりも「高齢者の医療の確保」がしやすくなるという観点も含まれています。
たとえば、すでに一部の地域では、団地併設の公民館などで、高齢の居住者が日用品や食材などのデリバリーを注文するための端末を備えているケースがあります。中には、公民館に常駐する支援者が高齢者の端末利用をサポートする体制も整えています。
今回の医療部会で提案された「看護師が同席してサポートする」という手法などは、こうした従来からの「高齢者のデジタル活用にかかるサポート」について、看護専門職の関与というアップデートを図るものと言えます。
この発想を拡大すれば、通所介護でも、利用者の状態を把握している介護・看護の専門職が関与することで、利用を可能とする考え方も浮かぶことになります。もっと言えば、高齢者の居宅においても、訪問介護・看護の専門職が「オンライン診療時のサポート」を担うしくみも想定されるでしょう。
サポート役のインセンティブをどう図るか
問題は、高齢患者にかかるオンライン診療の「場」が拡大する中で、上記のような「専門職によるサポート」が常に付随してくるとすれば、それを担う側にどのようなインセンティブが求められるかという点でしょう。
今回の議論では、サポート役として「看護師」が想定されています。しかし、たとえば通所介護内となれば、サポート役は介護給付の範囲内で担う可能性もあるでしょう。利用者の状態によっては、「サポート役は介護職でもOK」となるかもしれません。
ちなみに、公民館等での看護師によるサポートとなれば、地域医療介護総合確保基金(その他、何らかの交付金)などを財源とすることが想定されます。一方で、居宅における(訪問看護師などによる)サポートとなれば、これを医療保険でまかなうのか、介護保険でまかなうのかが議論になってくるでしょう。
なし崩し的にケアマネが担うケースも?
いずれにしても、課題整理を通じてサポート役の役割の範囲とそのコスト財源を明確にしていくことが不可欠です。これがあいまいにされたままだと、介護保険による対応がなし崩し的に拡大する恐れがあります。
仮に「介護保険で担う範囲」が明確になったとしましょう。次に課題となるのは、それをどのように介護報酬・基準へと反映させていくかという点です。このあたりもきちんと議論されないと、今の報酬体系の中で対応していくということになりかねません。
たとえば、2021年度改定で誕生した、ケアマネの通院時情報連携加算の一環として位置づけられたとします。同加算の算定は現行で月1回が限度ですが、オンライン診療のたびにケアマネがサポートに入ることが想定された場合、算定限度の緩和も必要になるでしょう。デジタル端末の操作補助というサポート範囲が加わるとすれば、現行の報酬単価にとどめていいのかどうかも問われます。
このように、医療側の規制改革が進む中で、介護側の実務にしわ寄せがおよぶことは、介護・医療連携の推進が強化される中では、常に想定されなければなりません。医療側の改革後は、介護保険部会や介護給付費分科会でも論点として上がることになるでしょうが、給付抑制という流れが強まる中で、どこまで報酬上の評価に反映されるか懸念は残ります。
次回の改定は診療報酬とのダブル改定となります。現場としても、医療側の多様な改革が介護側にどのような影響がおよぶのかについて、注意を深めていくことが必要です。
◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。