「自事業所は関係ない」は通用しない⁉ ケアプランデータ連携を重視すべき理由

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厚労省が「ケアプランデータ連携システムの概要等の周知について」とする通知を発出しました(vol.1096)。これに先がけて、「データ連携のための標準仕様」にかかる通知も出されています(vol.1095)。2023年度からの本格稼働が予定される同システムですが、事業所として見すえたいポイントを掘り下げます。

人件費だけで年間74万円削減の試算の意味

2023年度から稼働する予定なのは、居宅介護支援事業所と介護サービス提供事業所との間のデータ連携システムです。居宅介護支援事業所からサービス提供事業所に向けて提供されるのは、ケアプランの1、2、6(予定)、7表(3表も含まれる可能性あり)。サービス提供事業所から居宅介護支援事業所に向けては、6表の「実績」となります。

厚労省の試算では、これによって印刷・郵送・交通・FAXによる通信の費用が年間7万2000円削減されるとしています。ここに人件費を加えた削減は、約81万6000円にのぼるとのことです。つまり、人件費だけに絞れば、約74万4000円の削減になるわけです。

あくまで老健事業における調査研究での試算ですが、システムの周知時点で、こうした試算が公表されることに「引っかかり」を感じるケアマネもいるのではないでしょうか。

注意。今試算が報酬改定に影響をおよぼす?

「新システムを導入すれば、人件費を減らすことができる」ということは、事業所の収支に好影響をおよぼすこと意味します。システムを円滑に普及させたい厚労省として、当然ながら強調したいメリットです。

懸念されるのは、この試算が次の介護保険の見直しに向けて一人歩きしてしまうことです。たとえば、報酬改定の議論に際して、この数字が示されれば、居宅介護支援の報酬を左右しかねません。給付額の抑制という観点から、「基本報酬の引き上げや処遇改善加算の導入に際して、ケアプランデータ連携システムの普及による支出減を勘案すべき」という議論が出てくることは当然予想されます。

もちろん、現時点でこのシステム活用を事業所に義務づけるわけではありません。同システムに関しては「利用料」の発生が想定されており、2022年度版のICT導入支援事業では、その利用料も補助対象となっています。補助事業でまかなうだけの費用発生となれば、本稼働からいきなり「活用義務化」とするのは、現実問題として難しいでしょう。

ケアプランデータだけではない大きな流れ

とはいえ、新システムの活用を前提とした報酬改定議論が進む可能性はあります。なぜなら、居宅介護支援をめぐるデータ連携は「ケアプランデータ」にとどまらないからです。

まず注目したいのは、厚労省通知vol.1095の「データ連携のための標準仕様」の中に、入退院時の情報連携が含まれていることです。居宅介護支援にとっては、入院時情報連携加算および退院・退所加算に絡んできます。

両加算においては、前者では居宅介護支援から医療機関への、後者では医療機関から居宅介護支援への情報提供の様式が厚労省から示されています。先の通知では、この様式を電子化するためのデータの標準仕様のHP上での掲載が周知されています。

たとえば、両加算について「デジタルデータでの共有か否か」によって、差をつけた報酬区分ができるかもしれません(医療側からの要請も想定されるという点で、制度化しやすい部分と言えるでしょう)。

加えて、頭に入れておきたいのが、ケアマネジメントにおけるLIFEデータ(フィードバック票)の活用が制度化されるという可能性です。現在、LIFEをめぐる居宅介護支援を対象としたモデル事業が実施されています。

このフィードバック票をサービス提供事業所から受ける(共有する)場合、当然、その共有は「デジタルデータによること」が標準化される可能性は高いでしょう。
現状で居宅系サービスでのLIFE活用は通所系のみですが、国のモデル事業の展開を見る限り、いずれは訪問系サービスも拡大されることは確実です。となれば、ケアマネにとっては、標準的な実務が大きく拡大されるわけです。しかもそれがデジタルデータでの連携となれば、ICTによる業務改革の流れはますます強まることになります。

今から各現場なりの改革工程表を定めたい

こうして見ると、今回のケアプランデータ連携システムは、それを単独のシステムととらえることには注意が必要でしょう。並行して、ケアマネ実務のあり方を一変させるだけのさまざまな改革が進行中であり、それらを包括的にとらえる視野が必要となります。

今回のケアプランデータ連携システムについて、「自分の所は関係ない。制度上で義務化されたりするまでは静観する」という事業所もあるかもしれません。しかし、同システムに限らず、居宅介護支援の実務全般にかかわってくる話となれば、ただ手をこまねくことは、近い将来に死活問題となりかねません。

何よりも、新たなしくみに現場のケアマネが対応し(国が想定する)実務負担の軽減につなげるまでには、一定のタイムラグが必要です。その点を考えれば、今からどのように現場の実務改革を進めていくかという、事業所なりの工程表を定めることは必須でしょう。

いずれにしても、次の制度改革はケアマネジメントが主要ターゲットになっているという点を改めて意識しなければなりません。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。