生活援助の総合事業移行を議論するなら 「訪問介護」サービスの一本化も必要に?

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介護保険部会における「給付と負担の関係」の論点をめぐり、さっそく議論が紛糾しています。特に「軽度者(要介護1・2)の生活援助サービス等の総合事業への移行」については、業界団体や利用者団体からの反発が強く、どうなるか予断を許しません。

身体介護や通所介護の移行は大きな無理が

財務省などは、要介護1・2の人の訪問介護の身体介護および通所介護まで含めて、総合事業への移行を提案しています。

たとえば、通所介護の受給者のうち、66%以上は要介護1・2が占めています。特養ホームの併設事業のうち5割強が「通所介護」という点(2019年度・福祉医療機構調査より)を考えれば、事業費の上限設定がさらに厳しくなる可能性を見すえたとき、社会福祉法人として経営上の危機感は大きいでしょう。

訪問介護についても、要介護1・2の利用者の割合は全体の約6割。それがそっくり総合事業に移行するとなれば、やはり収支の悪化を懸念する事業所も多いはずです。

「ヘルパー不足が深刻な中では、総合事業の多様なサービスへと利用者の分散を図ることにメリットもあるのでは」という考えもあるかもしれません。しかし、現状で「多様なサービス」によって受け入れられる利用者は限られています。また、たとえば住民主体サービスで、採用率がヘルパー以上に厳しいサ責を置くことができるのでしょうか。「配置を義務づけない」という選択肢もありますが、多職種連携などでサ責の役割が大きく広がる中、施策上の整合性は乏しいでしょう。

生活援助の「移行」によって起こりうること

いずれにしても、要介護1・2の身体介護と通所介護を総合事業に移すというのは、地域の介護資源の安定性や利用者の自立支援・重度化防止いう観点から、ハードルはかなり高いと言わざるを得ません。

となれば、ターゲットとなるのは、やはり生活援助ということになります。財務省としても、「要求度合い」を上げることで、生活援助の移行を確実に押し通すという道筋を描いている感があります。今年6月に、厚労省が「生活援助従事者研修の普及」を強化するための通知発出をしたというのも、このあたりの流れを見すえているのかもしれません。

では、要介護1・2の生活援助が総合事業に移行した場合、どのような課題が浮上するでしょうか。ここでヒントとなりそうなのが、2018年度改定で「自立支援生活のための見守り的援助」が明確化されていることです。

厚労省の介護給付費実態統計によれば、この後から要介護1・2の訪問介護における身体介護の受給者割合が伸びています。仮に生活援助だけ総合事業に移行するとなれば、「生活援助を身体介護に切り替える」という流れはますます加速する可能性があります。

ケアマネの「板挟み」が強くなる恐れも

もちろん、本来は生活援助ニーズとなるサービスを身体介護に切り替えるとなれば、ケアマネジメント上の課題分析での根拠が問われます。その分析結果について、利用者の納得・同意を得ることも当然必要です。

生活援助よりも身体介護の方が利用料は高く、仮に「ケアマネジメントへの利用者負担導入」や「2割負担層の拡大」が絡んでくれば、利用者としては「わざわざ身体介護へと切り替える必要性」についての納得のハードルはより高くなるかもしれません。

現場レベルでこうしたゴタゴタが強まれば、ケアマネとしては(身体介護に切り替えたい)事業者側と(生活援助を望みたい)利用者の間で板挟みになりかねません。

また、本来であれば「身体介護+生活援助」の位置づけから、「生活援助」だけ総合事業による提供となった場合、同じヘルパーが制度の枠組みを超えてサービスを手がけることになります。こうした場合の制度上の位置づけ(ヘルパーの任用要件など)に混乱が生じないのかという点も気になります。

訪問介護の役割をもう一度整理すべきでは?

こうして見ると、やはり要介護1・2の生活援助を総合事業に移すには、さまざまな課題に対処しなければなりません。それよりは、一度訪問介護のあり方を根本から見直すという議論も必要でしょう。たとえば、身体介護と生活援助という括りをやめ、「生活支援」といった形で一本化するといった具合です。

たとえば、生活行為の流れでは、ある部分の環境を整えることで、「利用者が自分でできる」という部分が増えてくることがあります。特に認知症の利用者の場合は、生活の中でこうしたポイントがいくつも浮かんできて、「できる」範囲が日々変わることもあります。

また、「できていたこと」が突然「できなくなる」という場合、何らかの疾患が絡んでいたりします。その見極めと他職種への情報提供も含めて、一定の専門スキルを身に着けたヘルパーがトータルで対応しやすい制度とすることが、自立支援・重度化防止の精度を上げるのにより有効ではないでしょうか。

となれば、生活援助は、「訪問介護のヘルパーが利用者に対応している間に、別の多様なサービスが手がける買い物支援」といったスタイルに限定する考え方もあるでしょう。「それでは費用が膨らむ」と思われがちですが、ヘルパーが買い物のために移動する時間を節約するという点では、国が進めるタスクシフトによる効率化が図れる可能性もあります。

結局は、訪問介護が目指すものの位置づけが明確でないと、今回のような議論はますます混乱しかねません。一度、サービスの原点に立ち返るという流れも必要になりそうです。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。