適切なケアマネジメント手法も重要だが… 「医療側」の介護保険知識底上げも不可欠

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厚労省が、ケアマネ法定研修のカリキュラム見直し案についてパブリックコメントを募集しています(11月5日まで)。改正の概要内で注目したいのが、「適切なケアマネジメント手法」の内容が反映されていることです。特に「疾患別ケア」をめぐり、対医療連携のあり方にどこまで踏み込むかが注目されます。

「疾患別ケア」が次期改定にも反映される?

適切なケアマネジメント手法の「疾患別ケア」では、改定後カリキュラムへの影響がもっとも大きいと思われる項目として「大腿骨頸部骨折」や「心疾患」、「誤嚥性肺炎の予防」などのケアマネジメントがあげられます。

いずれも対医療連携が重要なカギとなります。特に「心疾患」に関しては、繰り返し発症しやすい特徴がある点で、ケアマネとかかりつけ医の日頃からの情報共有をどのように図っていくかが大きなポイントです。

今回のパブリックコメントを受け、来年度の法定研修からカリキュラム変更がなされるとします。そこでの修得内容などについて、2024年度の報酬・基準改定に反映されることも想定しなければなりません。たとえば、疾患別ケアに関して、医療機関とどのような情報をやり取りするのかなど、制度上で細かく規定されていく可能性もあるでしょう。

ダブル改定時の「医・介の意見交換」に注目

そうした点を頭に入れたとき、注意すべきは、次の2024年度改定が診療報酬側とのダブル改定となることです。診療報酬側で「高齢者の在宅や施設での療養」に関する何らかの改定が行なわれるとすれば、介護との整合性を取るうえで、介護報酬・基準上でも大幅なテコ入れがなされる可能性が高くなります。

もちろん、医療側と介護側の制度設計に関して、十分な意思疎通が図れなければ、現場に大きな混乱が生じかねません。そこで「ダブル改定(6年に1度)」に際しては、診療報酬改定を議論する中央社会保険医療協議会と、介護報酬改定を議論する介護給付費分科会との間で、意見交換の場が持たれます。

たとえば、前回「ダブル改定」となった2018年度改定では、2017年に「医療と介護の連携に関する意見交換」が行われました。そこでは、特に末期がんの利用者に関して「医療職とケアマネの間の連携・理解不足」が指摘される場面がありました。これを受けて、2018年度改定では、末期がんの利用者をめぐる介護と医療の情報強化を図るべく「ターミナルケアマネジメント加算」が誕生しています。

地域でも模索される対医療連携のしくみ強化

こうした過去のケースを振り返ったとき、同様の「介護側と医療側の意見交換」の場が、近々始まることになると思われます。そのタイミングでは、介護給付費分科会の議論も進行中です。上記の意見交換の内容がそのつど反映されることになるでしょう。

さらに、こうした意見交換の場では、2023年に予定される介護保険法や医療法など(国会では一括での審議が予想される)の見直しも、議論の土台となります。その時期には施行されている、冒頭の法定研修カリキュラムの内容も考慮されると考えられます。

ちなみに、昨年後半から厚労省の「第8次医療計画等に関する検討会」の一環として「在宅医療および医療・介護連携に関するワーキンググループ」が開催されています。現在は、在宅医療・介護連携の拠点の位置づけなどが議論されていますが、今後もデジタル連携のあり方なども含めたさまざまな検討会が、催されることになりそうです。

このような動きが慌ただしくなってくると、地域レベルでも保険者や包括、あるいは地域の医師会などが中心となって「介護と医療の現場連携」にかかるしくみの強化などを検討する場も増えてくるでしょう。

かかりつけ医等への啓もうも重要なテーマに

こうした対医療連携にかかわる取組みが増えてくる中で、ケアマネとしては「現在の医療知識をより高めて、医療職との意思疎通を円滑にすること」が中心的なテーマとなりがちです。あるいは、地域の医療機関が求める情報共有ツールやデジタル連携のルール整備なども課題となるかもしれません。

ただし、「医療職との意思疎通」を図るうえで、実は医療側にも多くの課題があることに注意が必要です。たとえば医療職の中には、介護保険のしくみやサービスについて、いまだ十分な知識を有していないケースが見受けられます。高齢者の在宅療養に際し、居宅サービスの知識が乏しいまま、いきなり家族に「特養ホームや有料老人ホームへの入居を勧める」といった話も聞くことがあります。

こうした旧態依然とした状況の中、国には、「ケアマネ側の医療知識を高めること」だけでなく、「医療職側の介護保険制度等の知識を底上げする」といった施策を拡充させることも必要になってくるでしょう。

また、地域で介護側の職能団体と医師会などが話し合いを持つ場合でも、「医療職に介護保険制度のことをもっと知ってもらう」というテーマを設定したいものです。決して医療職側の意識が低いということではなく、近年、制度のしくみやサービス体系などがどんどん変わる中では、医療職への最新情報の啓もうも必須になるということです。

医療職と介護職の間には、まだまだ認識のズレが多々あります。このあたりの課題解決に向け、新たな法定研修でも「どのように医療職の理解を高めていくか」という点に力を入れることも重要ではないでしょうか。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。