2025年度末までに、(対2019年度比で)+約32万人の介護人材が必要とされています。ただし、生産年齢人口の長期的な減少により、当初のニーズに追いつくか否かは予断を許しません。そうした中、介護保険部会で取り上げられたのが「介護助手の活用」です。制度上でどのように反映されていくのでしょうか。
考えられる基準改定の中身を考察すると…
厚労省は、「介護助手」について、人員配置基準上の位置づけを検討する方針を示しました。具体的には、2023年に行なわれる介護給付費分科会で議論されますが、おおむねの方針は、年内の介護保険部会の取りまとめで示されることになるでしょう。
ここでは、具体的な議論が始まる前の目安として、考えられる改定の中身を描いてみましょう。たとえば、介護老人福祉施設(特養ホーム)の場合、介護職員の配置基準は入所者3人:職員1人で、入所者の3の端数を増すごとに1人以上がプラスされます。
人材不足の解消という議論の流れを想定した場合、本来配置すべき介護職員の一部を「介護助手」に置き換えるという改定がまず考えられます。「端数を増すごとの1人以上」という数字を0.7や0.8に緩和し、0.2~0.3を「介護助手」に置き換えるといった具合です。
これにより、仮に入所者30人の施設で介護職員は7~8人、加えて2~3人の「介護助手」の配置を求めることになります。
どのような「但し書き」がプラスされるか?
問題は、「単純に介護職員を介助助手に置き換えるだけでいいのか」という点です。
たとえば、「介護助手」が担う間接業務について、介護職員が日常担っている業務における割合はどの程度あるのか。また、間接業務内のグレーゾーン(状況によって、利用者の見守り等が要される可能性がある場面)が生じやすいケースを想定し、基準上の業務範囲をどこまで厳格に定めるのかという具合です。
このあたりの分析や、その結果にかかる議論が紛糾した場合、さまざまな「但し書き」がプラスされる可能性も出てくるでしょう。
たとえば、2021年度改定におけるICT導入時の夜勤職員配置加算のさらなる緩和に際しては、「職員全員がインカム等を使用していること」や「具体的な要件を示した安全体制を確保していることが条件となりました。こうした条件を示したうえで、先の「配置の置き換え」を認める等が考えられます。
また、すでに「介護助手」の導入については、補助金を活用したモデル事業などが行われていますが、こうした事業に参加したうえで「効果測定や課題のねん出」を行ない、その報告書等を行政に提出するといった条件が加えられるなどのしくみも想定されます。
必要なのは「業務範囲の明確化」だが…
いずれにしても、先に述べた「介護助手の業務範囲の明確化」をまず進めることが必要でしょう。「介護助手」という名称そのものを見直すという意見もありますが、これについても「業務範囲の明確化」にかかる議論を経たうえで、「制度上の定義・概念の周知」に資するようにすることが重要でしょう。
というのも、「介護助手」の業務範囲の明確化は、決して簡単な課題ではないからです。この点について、2021年3月に全国老人保健施設協会が発表した「老人保健施設等における業務改善に関する調査研究事業」(2020年度老人保健健康増進等事業)の報告書からポイントを取り上げてみましょう。
この調査は、全老健の正会員施設を対象としたもので、回収された2,170施設のうち「介護助手を導入している」という割合は63.1%にのぼっています。このうち、「60歳以上の介護助手を雇用している」という施設は83.1%となっています。いずれも高率です。
注目したいのは、同調査内での「業務別担当」の状況です。介護助手(特に高年齢の介護助手)で担当割合が高いのは、「居室等の清掃、備品の準備・片付け・補充作業等」や「ベッドメイキング」、「洗濯、洗濯物の回収・配布」となっていて、国が想定する業務範囲にほぼ近いのではないでしょうか。
施設側は「見守り、傾聴」まで求める傾向に
一方、施設として「高年齢介護助手に担当してほしい」と考える業務を見ると、上記であげた間接業務に加え、「利用者の見守り、傾聴(話し相手)」や「食事の配膳・下膳」、「入浴後のドライヤーがけ・整髪」などが、いずれも7割以上を占めています。
たとえば「見守り、傾聴」は、利用者の意向や状態を推し量るうえで重要な機会です。会話上のやり取り如何では、利用者の生活意欲にも影響を与えることがあります。
「食事の下膳」でも、その際の食事の残し方などで気づくことも多く、日々の食事で介護職が把握しきれない情報に直面することもあるでしょう。「入浴後のドライヤーがけ」では、看護職等が場を離れた時に、利用者の体調異変に接する可能性もゼロではありません。
いずれにしても、課題の発見等に直結する直接業務との比較で、グレーゾーンとなることを想定しなければならない業務といえます。仮にこうしたグレーゾーンまで「担ってもらいたい」というのであれば、課題発見等にかかる一定の専門性を求めることも必要です。それが入門的研修等のレベルで間に合うのかどうかという議論も求められるでしょう。
今後の人員配置基準の議論に際し、「間接業務とは何か」、「そこで求められるスキルは何か」という観点から注視したいポイントです。
◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。