各種負担増以上のインパクトにも!? 「財務状況の見える化」動向に注意

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介護保険部会の議論も大詰めを迎えましたが、今回は「地域包括ケアシステムの深化」にかかる論点から「財務状況等の見える化」を取り上げます。医療法人や社会福祉法人だけでなく、幅広い介護サービス事業者に財務状況の公表を求める流れとなる中、現場実務・運営に与える影響や課題に着目しましょう。

「財務状況の見える化」に向けた3つの論点

「財務状況の見える化」に向けた検討の方向性を整理すると、以下の3つがあげられます。

(1)介護サービス情報公表制度を活用して、社会福祉法人以外の介護サービス事業者にも財務状況を公表することを求める。

(2)同じく介護サービス情報公表制度で、従事者1人あたりの賃金等も公表の対象とする。

(3)上記の(1)、(2)に加え、介護サービス事業者に、財務諸表等の情報を定期的に都道府県知事に届け出ることを求める。


いずれも、あくまで「検討の方向性」ですが、以下の2つの背景から2024年度の実現の可能性は高いと言えそうです。

背景の1つは、「給付と負担の関係」にかかる、利用者負担の増加や介護給付の制限(要介護1・2の一部サービスの総合事業への移行など)について、事業者や当事者を中心に反発の波が大きくなっていることです。財務省等からのプレッシャーは依然として強いですが、上記の波は今後政府としても見過ごせない状況になっていくでしょう。

そうした流れでは、介護保険の拠出削減の焦点が「介護報酬(特に基本報酬)のあり方」に絞られてくると考えられます。その場合、基本報酬等の基準を精査するうえで事業所の経営状況データの拡充が必要となります。

財務省などは「経営の効率化」を厳しく迫る姿勢を示していて、その前提としての「財務状況の見える化」を譲れない線とする姿勢をますます強める可能性は高いでしょう。

医療側の経営情報公表の流れともリンク!?

もう1つの背景は、現在進められている医療法人の経営情報にかかる検討会で、原則すべての医療法人に対して(現行で義務づけられている事業報告等に加え)詳細な経営情報の提出を義務づけることが議論されています。

一方で、介護保険部会の議論では、施設入所者への医療提供について、診療報酬や介護報酬の取扱いも含めたしくみの見直しが論点となっています。言い換えれば、医療と介護の住み分けも大きく変わる可能性があります。

また、介護医療院について、医療療養病床からの転換割合も一定を占める中、医療法人経営における介護事業の財務状況をどのように整理するかがますます課題となるでしょう。

となれば、医療法人の経営情報の提出に関して、介護事業の財務情報との整合性も問われることになるのは確実です。医療法人の経営情報にかかる検討の方向性と、介護事業の財務情報にかかる検討の流れは強くリンクすることになります。この点で、医療側の改革が先行すれば、介護側もそれに追随しつつ改革が進行すると考えていいでしょう。

事業の大規模化・協働化の流れとの関係

気になるのは、冒頭で述べた3つの論点が実現した場合、現場にどのような影響がおよぶかという点です。課題としては、やはり3つが考えられます。1つは現場の事務負担の増加、2つめは利用者等の反応、3つめは現場で働く従事者の受け止め方です。

1つめの課題については、たとえば(3)が実現した場合、事務職配置などが乏しい小規模法人が対応できるのかという点です。厚労省としては、財務諸表等のデジタルデータ化による電子申請などによる事務負担の軽減を図ることになるでしょうが、やはり小規模事業者がシステム的に対応できるかが問われます。

となれば、政府の改革工程表でも示されている「事業所間での協働化」の枠組みで、財務状況にかかる届出業務を委託しやすくする環境づくりが想定されます。一方で、その先には財務省などが狙いとする、合併等による大規模化も視野に入ると考えるべきでしょう。

公表情報に対する利用者・従事者の反応は?

2つめの課題ですが、たとえば(1)の介護サービス情報公表制度による財務状況の公表で想定されることがあります。利用者自身がそれを見て「サービス利用時の判断材料とする」というのが理想である一方、SNS等による情報発信が急速に拡大する昨今、第三者による誤った風評の発信が、利用者の判断に影響を与えることも考えられるという点です。

この点については、先に述べた医療法人の経営情報にかかる検討会でも「公表された情報について、悪意的にこれを利用される可能性も否めず、詐欺その他の犯罪被害などのリスクを伴う」という意見が出ています。こうしたリスク防止策も議論されるべきでしょう。

3つめの従事者側の反応ですが、たとえば(2)が公表されるとして、地域における他事業所と自身の賃金の比較が容易となります。これ自体、事業所側に「賃金を上げざるを得ない」というプレッシャーを与える効果はあるかもしれません。ただし、それも正確な情報が公表され、第三者による悪意的な利用がなされないという前提があってのことです。

いずれにしても、国として「ただ公表する」だけでなく、情報の正確性をチェックしたり、悪意的な利用を防ぐための方策が必要です。と同時に、現場としては「財務状況の見える化」が安易な報酬減議論へとつながっていかないかどうかも注意する必要がありそうです。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。